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VUCA時代の生存戦略 「サプライチェーン担当」が鍵にGartnerイベント(2/2 ページ)

» 2025年06月02日 11時30分 公開
[Pablo ValerioEE Times]
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弾力性あるサプライチェーンへ

 世界貿易情勢は現在、安定した多国間協定から、“武器化された貿易”や一方的行為、信頼性の崩壊へと、歴史的な変化を遂げつつある。これを受け、予測可能なサプライチェーンから、必要に応じて伸縮可能な“弾力性あるサプライチェーン”を調整する方向へと移行していく必要がある。

 このような弾力性のあるネットワークは、1つの貿易圏への依存度を低減し、地理的多様性を提供することができる。Azim氏は「CEOが市場拡大/多様化をはじめとする成長への意欲を持つことによって、そのニーズが高まっていく」と指摘する。

 実際に、組織全体の53%が過去2年間で生産拠点を拡大している。弾力性を高めるためには、信頼境界線を確立し、貿易圏全体で戦略的に製造/供給を移行するための体勢を整える必要がある。

 重要な事例としては、Unileverが生成AIを利用してカカオの供給停止を特定し、調達先を中南米に拡大したことなどが挙げられる。

 Azim氏は「重要なのは、資産は俊敏でもなければレジリエントでもないが、人間は俊敏かつレジリエントであるという点だ。制約のある分岐された世界では、解決策を見つけ出すのは人間である。ネットワークの弾力性は、技術の相互接続性と人材の適応能力によって決まる。人間は、関係性を構築して、創造性を提供し、生産を形成することにより、ダイナミックな環境の中でジャズミュージシャンのように活動する存在だ」と強調している。

 こうした複雑な市場では、顧客中心主義とブランド提携も不可欠である。Azim氏は「最高サプライチェーン責任者(CSCO)の中で、現在の全体的なカスタマーエクスペリエンスに関する展望/戦略について説明することができる人の割合は、全体のわずか4%にとどまる」という驚くべきギャップを指摘する。

 Gartnerは、こうした状況は変化していくとみている。今後CSCOがもっと主導的役割を担うようになり、2027年までに大規模なグローバルサプライチェーン全体の30%がカスタマーエフォートスコア(CEF:Customer Effort Score)のような測定基準を採用する見込みであるからだ。顧客中心主義をより強化するためには、分析への投資や、カスタマージャーニーのマッピング、顧客チームとの直接的な関りを持つことなどが必要だ

 一例として挙げられるのが、HPだ。同社は、顧客主導型のサプライチェーンへと移行する決断を下した。その結果、顧客満足度は13ポイント増加し、配送の予測可能性が50%から95%へと跳ね上がった他、注文処理時間は55%超短縮できたという。

 そして最後の戦略である「Accelerate(加速)」は、イノベーションが不可能に思われるような激動の環境の中で、変化を推進するという課題に取り組むことだ。Azim氏は「目の前の問題に短絡的に対応することで、イノベーションに必要な長期的投資を脇に追いやってしまう可能性があるというジレンマが存在する。われわれのこれまでのやり方では、デジタルな未来へ進んで行くことができない。CEOたちは、次なるビジネス時代にAIを見据えながらも、全体の77%が自社の経営モデルでは十分な対応ができないと感じている」と指摘した。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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