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基板に直接塗布できる ヘテロ金属配位ナノシートをインク化新手法でコロラド溶液として合成

東京理科大学の西原寛嘱託教授らによる研究グループは、ヘテロ金属配位ナノシートのインク化に成功した。印刷技術による配位ナノシートの大量生産や基板への直接塗布が可能となる。

» 2025年07月15日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

印刷技術による配位ナノシートの大量生産や基板への直接塗布が可能に

 東京理科大学の西原寛嘱託教授らによる研究グループは2025年7月、ヘテロ金属配位ナノシートのインク化に成功したと発表した。印刷技術による配位ナノシートの大量生産や基板への直接塗布が可能となる。

 配位ナノシートは、金属イオンと平面的なπ共役系有機分子との配位結合によって形成される二次元高分子。金属イオンの選択や配位子の分子設計により、さまざまな物理的・化学的特性を持たせることができる。このため、エネルギー貯蔵や電子デバイス、電極材料、触媒などの用途で注目されている。

 研究グループはこれまで、配位ナノシートの開発に取り組んできた。成果の1つが、膜状の多層および単層多孔性ニッケルジチオレンナノシート「NiDT(Ni3BHT2)」の合成である。ベンゼンヘキサチオール(BHT)とNi2+との液−液界面および、気−液界面における錯形成反応を活用して実現した。

 2022年には、種類が異なる2つの金属(NiとCu)を含むヘテロ金属配位ナノシート「NiCu2BHT」について、二相界面を用いたボトムアップ法で合成する手法を発表した。この方法で得られたNiCu2BHTは、結晶性に優れ電気伝導率も高いことが分かった。そこで今回、より精密で汎用性が高いヘテロ金属配位ナノシートの合成法を確立するための研究に取り組んだ。

 今回は、2つの新しい方法でヘテロ金属配位ナノシートを合成した。その1つは、金属イオンとBHTの単相反応によって調製した配位ナノシートのコロイド溶液を用いる方法である。NiDTとNiBHTのコロイド溶液を製造する条件を見出したことで、CuBHTやZnBHTのコロイド溶液についてもNiBHTと同じ方法で合成に成功した。

 これまで行われてきた合成方法の場合、二相界面合成だと薄膜、単相合成では粉状の生成物が得られる。ところがこれらの生成物は加工することが難しかったという。新たな方法だと、配位ナノシートをインク化できるため、基板などにコーティングすることが容易となった。

今回提案した配置ナノシートコロイドの作製方法[クリックで拡大] 出所:東京理科大学 今回提案した配置ナノシートコロイドの作製方法[クリックで拡大] 出所:東京理科大学

 未反応のBHTを含むNiDTコロイド溶液にCu2+を添加することで、NiCu2BHTの選択的合成にも成功した。また、NiDTコロイド溶液にZn2+を反応させたところ、新材料のNiZn2BHTを合成できたという。

 ヘテロ金属配位ナノシートを合成するもう1つの方法とは、NiBHTのトランスメタル化反応を用いたことである。今回は、NiBHTとCu2+とのトランスメタル化反応を詳細に調べた。これにより、2段階のトランスメタル化反応が進行し、最終的にCuBHTが生成される。ところが第1段階では、NiCu2BHTが生成されていることを確認した。

 実験では、得られた成果物(NiDT、NiBHT、NiCu2BHT、NiZn2BHT)の電気伝導度についても調べた。金属イオンとBHTの単相反応によって生成された配位ナノシートにおける電気伝導度の大きさは、NiCu2BHT、NiBHT、NiDTの順で、NiZn2BHTはNiDTとほぼ同等であった。

 一方、トランスメタル化反応で得られた成果物の配位ナノシートにおける電気伝導度は、tm- NiCu2BHTが、NiBHTやtm-CuBHTの電気伝導度を上回ることが分かった。

 今回の研究成果は、東京理科大学の西原氏の他、伊藤実祐氏(2024年度修士課程修了)、福居直哉プロジェクト研究員、高田健司プロジェクト研究員、前田啓明嘱託講師らによるものである。

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