図7は過去20年の大きな変化の2つ目である。いわゆるクロスオーバー半導体が増えていることである。民生分野で使われた半導体がそのまま車載や産業分野にも流用される事例が増えている。
20年前は、温度特性が違う、信頼性やテスト項目が違うといって民生と車載を別々の半導体とすることが主流であった。しかし今や微細化による開発費の高騰や、ソフトウェアの増大によって、2つのものを別々に開発できる力量はトップメーカーさえ持っていない。民生で大量販売し、減価償却の進んだシリコンのテスト項目を増やして車載や産業、宇宙分野などに流用する方が、はるかに経済合理性は高い。またテストパターンやソフトウェアなども流用できるという利点もある。開発コストが数百億円にも上る超微細プロセッサを1分野のみで終わらせるのは、今後はほとんどないと思われる。高い金を払って作ったものは何にでも使うという流れが、年々加速していくことは間違いない。
図8はスケーラブル開発の定着化だ。上はAppleの最新プロセッサ、「M4」と「A18」、下はNVIDIAの最新Blackwellアーキテクチャを採用したGPU、「GeForce RTX 5000」シリーズの様子である。いずれも多くの話題の製品に搭載されて販売されている。市場ニーズにはハイミドルロー(日本語では松竹梅)がある。高価でも最上位を使いたいユーザー、安価で気楽に使いたいユーザーなどがいる。市場ニーズを満たすべく松竹梅を別々に作るには、複数の開発チームが必要になる。AppleやNVIDIAのプロセッサは一筆書き(一つをベースとしたスケーラブルデザイン)で作られている。ハイエンドが全てを司り、下位になるごとに、内蔵されるCPUやGPUのコア数がカットダウンされている。同時にメモリインタフェースチャンネルやPCI ExpressのLane数もカットダウンされていく。搭載されるコア数だけで松竹梅を調整しているわけだ。最も設計難易度の高いスーパーハイエンドだけ完成すれば、あとはカットダウンカットダウンの一筆書きで全ラインアップが生まれてくる。こうした手法が大々的に多くのメーカーで活用されるようになったのもここ10年の大きな特徴といえるだろう。松竹梅を3チームで開発していては費用がかさみ、開発効率はいつまで経っても上がらない。今後、さらに設計規模が増大し複雑化する超微細化時代にはAI設計も絡め、さらに一筆書きが進むようになるものと思われる。
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