産業技術総合研究所(産総研)は、大阪公立大学工業高等専門学校や愛媛大学と共同で、電荷担体に分子イオンを用いる「分子イオン電池」が、急速充放電特性に優れていることを実証した。
産業技術総合研究所(産総研)電池技術研究部門の八尾勝研究グループ長らは2025年8月、大阪公立大学工業高等専門学校や愛媛大学と共同で、電荷担体に分子イオンを用いる「分子イオン電池」が、急速充放電特性に優れていることを実証したと発表した。
二次電池として広く普及しているリチウムイオン電池は、電荷担体にリチウムイオン(Li+)が用いられている。ただ、イオン半径が小さいLi+は表面電荷密度が高く、電解液中で溶媒分子と強く相互作用するため移動速度が遅くなるという。
これに対し、分子性イオンはイオン半径が大きく、溶媒分子と引き合う力が小さいため、Li+に比べ高い移動速度が期待できるという。特に、イオン半径が0.2〜0.3nm程度の分子イオンは最も高い伝導度を示すことが分かった。また、電解液中だけでなく固体状の電極内でも、Li+より動きやすいことが知られている。分子性電荷担体を用いれば、内部短絡を引き起こす可能性があるデンドライトの生成も抑えられるという。
ところが、固体の電極材料中で陽イオンであるLi+と、陰イオンである分子イオンの動きやすさを直接比べることはできず、実際に検証するのは極めて難しかったという。
そこで今回は、陽イオンと陰イオンの両方を電荷担体として使える特殊な高分子材料に着目した。電極に用いた高分子材料は、Li+を受け渡しするキノン構造と、陰イオンを受け渡しするトリフェニルアミン構造を分子内に併せ持っている。この材料を用いて、Li+および、分子性イオンであるヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)の動きを評価した。
この高分子材料を用いた電極は、充放電を行う時に、高い電圧領域ではPF6-が、低い電圧領域ではLi+が、それぞれ出入りする。これらの領域でその挙動を測定し、2種類のイオンの動きを比べた。各電圧領域で電流値を変化させたところ、出入り時の電圧損失および移動に伴う抵抗は、いずれもPF6-が小さいことが分かった。これらの結果は、溶液中だけでなく固体の電極材料中でも同様に、PF6-が動きやすいことを示すものだという。
研究グループは今後、分子イオンを受け渡しする正負極材料の開発を行いつつ、さらなる高エネルギー密度化に取り組んでいく。
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