SiC CMOSパワーモジュールでモーター駆動 損失を10分の1に:高速スイッチング動作時のノイズ低減
産業技術総合研究所(産総研)は、明電舎と共同でSiC CMOS駆動回路を内蔵したSiCパワーモジュールを用い、モーターを駆動させることに成功した。高速スイッチング動作時に発生するノイズを抑え、エネルギー損失を従来に比べ約10分の1に低減した。
産業技術総合研究所(産総研)先進パワーエレクトロニクス研究センターの八尾惇主任研究員と佐藤弘研究チーム長、岡本光央研究チーム長は2025年3月、明電舎と共同でSiC CMOS駆動回路を内蔵したSiCパワーモジュール(以下、SiC CMOSパワーモジュール)を用い、モーターを駆動させることに成功したと発表した。高速スイッチング動作時に発生するノイズを抑え、エネルギー損失を従来に比べ約10分の1に低減した。
SiCパワーデバイスは、「高耐圧」や「低オン抵抗」「高速動作」「高温環境でも動作可能」といった特長があり、電気自動車(EV)や再生可能エネルギーといった分野で利用が拡大したいる。ただ、現行のSiCパワーデバイスは、スイッチングノイズの影響で誤動作するなどの課題もあり、極めて低速なスイッチング動作でしか利用されていないという。
産総研はこれまで、SiC CMOS駆動回路を用いれば、SiCパワーデバイスの高速スイッチング動作が可能なことを明らかにしてきた。そこで今回は、量産中のEVにインバーターモーターを供給している明電舎の協力を得て、SiC CMOSパワーモジュールを用いモーター駆動の実証実験を行った。
モーター駆動時にインバーターから出力される電流値や電圧値を測定した。この結果、位相が120度ずれた3つの正弦波が観測され、モーターが駆動されていることを確認した。しかもインバーター連続動作を達成したという。
SiC CMOSパワーモジュールを用いたモーター駆動時の出力電流および電圧波形[クリックで拡大] 出所:産総研
研究グループは今回、現行のパワーデバイス用ドライバーを活用しながら、ノイズによる誤動作を防ぐため、SiC CMOS駆動回路を用いる独自の駆動方法を開発し、低ノイズ化を図った。
モーター駆動時におけるSiC MOSパワーモジュールのスイッチング動作波形を観測したところ、スイッチング速度はターンオン時に72V/ナノ秒、ターンオフ時に85V/ナノ秒であった。このスイッチング速度は、現行のSiCパワーモジュールに比べて約10倍も高速で、発生するスイッチングロスを約10分の1(概算)に低減できることが分かった。
ノイズを抑制するSiC CMOSパワーモジュールの概要[クリックで拡大] 出所:産総研
モーター駆動時のターンオン波形およびターンオフ波形[クリックで拡大] 出所:産総研
パワー半導体モジュール基板の熱拡散率評価法を検証
産総研グループ(産業技術総合研究所およびAIST Solutions)と日本ガイシは、パワー半導体モジュールなどに用いられる窒化ケイ素製セラミック基板の熱拡散率を、高い精度で評価するための共同研究を始めると発表した。
スマホの周波数フィルター高性能化に効く AlN系圧電薄膜
産業技術総合研究所(産総研)と物質・材料研究機構は、弾性波フィルターに用いられる窒化物圧電材料の性能を大きく向上させることに成功した。圧電定数を35.5pC/Nまで高めたことで、より高い周波数帯域に対応した弾性波フィルターを開発できるとみている。
ダイヤモンド表面を原子レベルで可視化 デバイス性能向上に貢献
東京大学は、産業技術総合研究所(産総研)と共同で、ダイヤモンド表面を原子レベルで可視化する技術を開発した。ダイヤモンド薄膜が成長する機構の解明や、ダイヤモンドデバイスの性能向上に貢献できるとみている。
「液滴レーザーディスプレイ」をプリンターで作成
筑波大学と産業技術総合研究所(産総研)らの研究グループは、インクジェットプリンターを用いて、「液滴レーザーディスプレイ」を作製することに成功した。今後、デバイス構成の改善やレーザー性能の向上を図ることで、レーザーディスプレイの早期実用化を目指す。
FRAM向け新材料を開発、メモリ動作電圧が6割減に
産業技術総合研究所(産総研)と東京科学大学は、強誘電体メモリ(FRAM)に用いる新材料として「GaScN結晶」を開発した。金属添加物(Sc)の濃度を高めることで、杭電界を小さくした。これにより、従来の窒化物材料と比べメモリ動作に必要な電圧を60%も下げることができるという。
生体神経組織の動作を模倣するトランジスタを開発
産業技術総合研究所(産総研)と東京大学、九州大学、兵庫県立大学、名古屋工業大学らによる研究グループは、生体神経組織の動作を模倣できるMOSトランジスタの動作実証に成功した。従来のCMOSトランジスタに比べ100万倍以上もゆっくり動作し、消費電力は500pWと極めて小さい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.