産業技術総合研究所(産総研)は、ミリ波やテラヘルツ波を利用する通信機器などに搭載される電子部品の特性を高い精度で比較的容易に測定するための技術を開発した。測定結果に影響を与える導波路の接続状態を、AI技術によって自動判定する。これによって、測定経験が浅いエンジニアでも安定した測定が行えるという。
産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門の坂巻亮主任研究員と昆盛太郎研究グループ長は2025年6月、ミリ波やテラヘルツ波を利用する通信機器などに搭載される電子部品の特性を高い精度で比較的容易に測定するための技術を開発した。測定結果に影響を与える導波路の接続状態を、AI技術によって自動判定する。これによって、測定経験が浅いエンジニアでも安定した測定が行えるという。
ミリ波やテラヘルツ波など高周波帯を利用する6G(第6世代移動通信)やテラヘルツスキャナーなどの機器には、高周波対応のアンプやフィルターなど多くの電子部品が搭載されている。こうした電子部品の反射特性や透過特性などを評価するには、測定器から被測定物に対して電磁波を伝送し、その反射波や透過波を測定する必要がある。
この時、電磁波を伝送するための導波路として用いられるのが、導波管や同軸ケーブル、プローブである。ところが、ミリ波以上の高周波帯では、導波路の接続位置がわずかにずれただけでも、測定結果に影響を及ぼすことが分かっている。このため、導波路の接続には高度な技術が必要となる。接続状態が正しいかどうかを判断するにも、専門的な経験や知識が求められるという。
例えば導波管を用いて高周波送信機と受信機を接続する場合、接続部となる導波管の開口部寸法は数百μmである。このため、接続時に数十μmの位置ずれが生じることもある。位置ずれは平行方向だけでなく、わずかな接続面の傾きずれによっても発生するという。
こうした中で研究グループは、ミリ波やテラヘルツ波における導波路の接続状態を自動的に判定する技術を開発した。測定データから特徴を抽出し、機械学習によって接続状態を自動的に分類・判定するシステムである。
導波管の例では、正常に接続されている時の特性を「既知」とし、導波路の接続状態によって変化する透過特性や反射特性などの測定データを参照データとして活用した。そして、データの特徴を分析し、正常接続と不良接続を判別するモデルを開発した。判別を行うためのしきい値としては、正常接続時(あるいは異常接続時)の測定値の標準偏差を適用できるという。
開発したアルゴリズムには汎用性があり、参照データを収集したデバイス種以外でも使用できる。また、異なるメーカーや周波数(1G〜220GHz、220G〜330GHz、750G〜1.1THz)の計測システムにおいても活用できることを確認した。
データの判定時には、測定結果に対し多項式フィッテングを行い、得られた多項式から特定次数の係数を用いてデータ群の密度解析を行う。この時のデータ密度は局所外れ値因子(LOF)として出力される。LOFが「1に近い場合、外れ値ではない」と判断。LOFが「1より大きい場合は外れ値である」可能性が高い。
今回の手法では、参照データ群の中に投入したテストデータのデータ密度より、接続状態を判定する。このため、接続状態が良好な参照データを活用すれば、接続不良状態で得られたテストデータのデータ密度は低くなり、LOFが大きくなる。逆に、接続不良の参照データを用いた場合には、接続状態が良好な時に得られたテストデータのLOFが大きくなる。これらの結果から、接続の良否をLOF値で判定できることが分かった。
研究グループは今後、導波路の電動アライメントシステムと組み合わせることで、測定システムの自律的かつ自動的なセットアップを実現していく考えである。
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