物質・材料研究機構(NIMS)は、東北大学や産業技術総合研究所(産総研)と共同で、電力損失を従来の半分以下に抑えることができる鉄系磁性材料を開発した。高周波トランスや電気自動車(EV)の駆動用電源回路といった用途での採用が期待される。
物質・材料研究機構(NIMS)は2025年9月、東北大学や産業技術総合研究所(産総研)と共同で、電力損失を従来の半分以下に抑えることができる鉄系磁性材料を開発したと発表した。次世代高周波トランスや電気自動車(EV)の駆動用電源回路といった用途での採用が期待される。
パワーエレクトロニクスの領域では、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などバンドギャップが広い半導体材料を用い、高電圧や高周波数、高温動作に対応できる半導体デバイスの開発が進んでいる。ところが、重要な構成要素の1つである軟磁性材料においては、エネルギーロスの増大が課題となっていた。
軟磁性材料の中でも注目されているのが、「鉄系軟磁性アモルファス材料・ナノ結晶材料」である。高磁化が期待でき低保磁力化が可能なためである。そこで研究チームは、低損失の軟磁性材料開発に取り組んだ。
今回は、ナノスケールでの組織制御と、高周波領域における磁区構造の最適化を融合させる方法で、鉄を主成分とするアモルファスリボンの磁気特性を向上させることに成功した。実験では、液体急冷法を用いて作製した鉄系アモルファスリボンを部分的に結晶化させ、ナノサイズの鉄結晶が分散している状態を透過型電子顕微鏡で確認した。
さらに、磁気光学Kerr効果顕微鏡を用い、磁区を観察した。この結果、微細な縞状の磁区構造が現れていることを確認した。この観察結果を踏まえ、マイクロマグネティクスシミュレーションを行った。これにより、縞状の磁区構造が出現した要因は、弱い垂直磁気異方性の発現であることが判明した。これらの結果から、数十kHzの高周波領域において、軟磁性材料による電力損失の80%以上を占める「過剰損失」を、大幅に抑制できることが分かった。
開発したリボンは、重量比で94%以上を鉄が占めている。それ以外も比較的低コストの元素(ホウ素、リン、炭素、銅、ケイ素)からなる。研究チームは幅60mmで厚み25μmのリボンが製造できることを確認しており、産業用途でも十分に利用できるとみている。
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