物質・材料研究機構(NIMS)を中心とする研究チームは、走査透過電子顕微鏡法(4D-STEM)と機械学習を組み合わせることで、ナノ領域で二硫化モリブデン(MoS2)単層膜の「微小な回転(ツイスト)」や「極性」を高い精度で広範囲に可視化することに成功した。
物質・材料研究機構(NIMS)を中心とする研究チームは2025年8月、走査透過電子顕微鏡法(4D-STEM)と機械学習を組み合わせることで、ナノ領域で二硫化モリブデン(MoS2)単層膜の「微小な回転(ツイスト)」や「極性」を高い精度で広範囲に可視化することに成功したと発表した。開発した手法は二次元材料だけでなく、さまざまな複合材料の評価に適用できるという。
MoS2などの遷移金属ダイカルコゲナイド材料群は、原子数層からなる新素材で、優れた半導体特性を持つことから、次世代の電子デバイス材料として注目されている。ただ、ツイスト結晶ドメインや原子配列の方向(極性)によっては、特性が劣化することもあるという。
このため、この材料を実用レベルのデバイスに適用しようとすれば、薄膜の結晶欠陥などを高精度かつ広範囲に評価する必要がある。ところが、従来の電子顕微鏡技術だと微細な構造を解明するのに限界があったという。
そこで今回は、単層MoS2薄膜を対象として、わずかに回転した微小な結晶ドメイン構造を、高い精度で解析するための計測手法を新たに開発した。実験では、有機金属気相成長法(MOCVD)を用い、サファイア基板上に単層MoS2薄膜を合成した。そして4D-STEMにより、ナノメートルレベルの空間分解能で2万点以上の回析パターンを取得した。
得られた4.6Gバイトもの回析パターンデータを、教師なし機械学習の一種である「非負値行列因子分解」や「階層型クラスタリング」といった手法で解析した。回析強度を電子数に変換して量子ノイズを推定し、MoS2単層膜の極性と回析パターンを、シミュレーションと実験で確認した。
ツイストドメインの極性は、フリーデル則のやぶれによる回析パターンの非中心対称性から可視化した。データの計測と解析には、電子顕微鏡用ソフトウェア「DigitalMicrgraph」および、この上で動作するpythonライブラリを用いて行った。
4D-STEMと教師なし機械学習を組み合わせた手法を用いると、試料上の位置と回析パターンによる原子配列情報を同時に捉えることができる。これにより、湾曲しているような試料でも、クラスタリングなどによって解析できるという。
今回の研究成果は、NIMSマテリアル基盤研究センター電子顕微鏡グループの木本浩司センター長、原野幸治主幹研究員、吉川純主幹研究員、Ovidiu Cretu主任研究員、半導体エピタキシャル構造グループの佐久間芳樹特別研究員、電子顕微鏡ユニットの上杉文彦主幹エンジニア、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の大島義文教授、麻生浩平講師および、東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(TEL TS)の松本貴士グループリーダーらによるものである。
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