九州工業大学の研究チームは、切断/研磨しただけのマルチフェロイック酸化物「YMnO3単結晶」を用い、物理リザバー計算(PRC)デバイスを開発した。極めて少ない電力消費で音声を認識でき、話者認識などの精度も高い。
九州工業大学の研究チームは2025年9月、切断や研磨をしただけのマルチフェロイック酸化物「YMnO3単結晶」を用い、物理リザバー計算(PRC)デバイスを開発したと発表した。極めて少ない電力消費で音声を認識でき、話者認識などの精度も高い。
PRCは、物理的な現象や物質の性質を利用して情報処理を行う技術。従来の機械学習モデルに比べ電力消費が少なく、高速に処理できることから、エッジAIなどへの応用が期待されている。ただ、光や電気化学などによるPRCの多くは、高温環境では特性が不安定となる。しかも半導体回路との統合が難しいなど、実用レベルでは課題もあった。
研究チームは今回、強誘電性や反強磁性を併せ持つYMnO3単結晶に着目した。YMnO3単結晶は、三つ葉状に広がる特殊なドメイン構造が自然に形成される。この強誘電ドメイン構造がランダムネットワークを形成し、AI演算を実現するという。
実験では、切断や研磨をしただけのYMnO3単結晶を用い、PRCに必要な非線形性やメモリ効果が得られることを実証した。しかも、総消費電力が約1.77μW、ドメイン当たり約0.02nWという極めて少ない電力消費で音声認識を実現した。また、認識率は数字で75%、話者は98%という精度を達成した。
さらに、150℃でも特性が安定していることを確認した。外部電場によりドメイン構造を制御すれば、PRC性能を変えることもできるという。
今回の研究成果は、九州工業大学ニューロモルフィックAIハードウェア研究センターの堀部陽一教授(大学院工学研究院)、田中啓文教授(同センター長、大学院生命体工学研究科)、徐木貞助教(同センター)らによるものだ。
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