早稲田大学と桐蔭横浜大学の研究グループは2025年10月、近赤外光を有効活用できる「アップコンバージョン型ペロブスカイト太陽電池」を開発した。1.2Vに近い開放電圧を維持しながら赤外光感度を得ることに成功し、16%以上のエネルギー変換効率を達成した。
早稲田大学理工学術院の石井あゆみ准教授と桐蔭横浜大学医用工学部の宮坂力特任教授らによる研究グループは2025年10月、近赤外光を有効活用できる「アップコンバージョン型ペロブスカイト太陽電池」を開発したと発表した。1.2Vに近い開放電圧を維持しながら赤外光感度を得ることに成功し、16%以上のエネルギー変換効率を達成した。
ペロブスカイト太陽電池は、高い変換効率と低い製造コストという特長から、次世代の太陽電池として注目されている。既に変換効率は26%を超えているという。ただ、発電に利用されている光は主に可視光領域だ。
太陽光の半分近くを占める近赤外光は利用されておらず、これまで無駄にしてきた。近赤外光を利用するため、スズ系ペロブスカイトの太陽電池も開発されている。しかし、鉛系材料を用いたペロブスカイト太陽電池に比べ、品質が劣り出力電圧も0.9V以下に落ちて変換効率も悪いという。アップコンバージョン技術も登場したが、これまで用いられてきた希土類材料だと、光を吸収する能力が極めて低く、自然光を用いる利用環境に向けては、実用化が難しかった。
そこで研究グループは、有機色素を化学的に結合した希土類系アップコンバージョンナノ粒子を開発した。具体的には、近赤外光を強く吸収する有機色素の「インドシアニングリーン(ICG)」を採用した。この分子を、希土類イオンを含んだナノ粒子の表面に固定。これによって、弱い近赤外光でも希土類イオンから可視光が放出されるようになった。
さらに、このナノ粒子の表面を「ペロブスカイト(CsPbI3)」で覆った。こうした界面処理を行ったことで、粒子表面でのエネルギー損失を抑えると同時に、CsPbI3層との親和性も向上させた。
改良型アップコンバージョンナノ粒子をCsPbI3太陽電池に導入したところ、従来のセルに比べ光電流密度が著しく増加した。これは、近赤外光が可視光に変換されて、ペロブスカイトがそのエネルギーを吸収し、電気に変換されたことを実証するものだという。分光感度スペクトル(IPCE)測定でも、近赤外光領域での電流応答を確認した。
研究グループによれば、実用化に向けた課題として、「耐久性の検証」や「ペロブスカイト自体の安定性向上」「鉛フリーへの対応」などが必要になるという。
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