経営コンサルティングを手掛けるMcKinsey & Company(マッキンゼー・アンド・カンパニー、以下McKinsey)が提供した統計によると、生成AIの計算需要は2030年までに合計で25×1030FLOPSに達する可能性があり、最新シリコンを搭載した既存のスパコンやAIシステムの性能を大きく上回る見込みだという。
Mckinseyのレポートは、「B2B(Business to Business)分野における生成AIのユースケースの導入は、半導体チップ供給の充足度とコストによって大きく左右される。企業には、サービスコストが自社の支払意思額を確実に下回るよう、コンピュートインフラへの投資を合理化できる能力が不可欠だ」と述べる。
業界は現在も「AIの成功は、半導体市場がこの新時代のインテリジェンスを駆動する半導体チップを提供できるかどうかによって大きく左右される」という転換点にある。コロナ禍における半導体不足は収まったように見えるが、新たな制約によって重要なサプライチェーンが抑圧され、AIが引き続き拡大していく上での重大な障害が発生している。その中でも特に注目すべきが、メモリだ。
メモリ業界は現在、障壁に直面している。高性能AIチップに対する需要が急増する一方で、従来型のメモリチップ(DRAM、広帯域メモリ[HBM]、フラッシュメモリ)の供給が急激に逼迫(ひっぱく)し、顕著な供給不足や価格上昇が生じている。実際、市場調査会社Counterpointのレポートによれば、AIの拡大に伴い、2026年にメモリ価格が約20%も上昇する見込みだという。これについては、EE Timesの記者Alan Patterson氏が2025年11月に報じている。
問題の原因は何なのか。Counterpointによると、SK HynixやMicron Technology(以下、Micron)のような大手メーカーが、AIブームに対応すべく、より高性能なHBMへと生産を移行したことで、旧型のLPDDR4メモリの不足が生じたためだという。さらに、米国の関税や中国との競争なども、こうした惨事を招く要因になっているのは間違いない。
しかし一部のプレーヤー企業は、このようなメモリ不足に対応するための行動を起こしつつある。Marvell Technology(以下、Marvell)は、2025年12月2日に大型買収を発表しており、それが業界に大きな影響を及ぼす可能性がある。同社は、EE Timesが発表した2025年の「Silicon 100」レポートでも取り上げられたスタートアップCelestial AIを、32億5000万米ドルで買収するという。Celestial AIは光ファブリックデータセンター技術を専業とするため、Marvellはこの取引により、トップクラスのAIチップメーカーやネットワーク企業と直接競合できる位置付けを得ることになる。
Micron Technologyは、96億米ドルを投じて広島県に新しいHBMチップ製造工場を建設する予定だと報じられている。これにより、世界メモリ市場の負担が軽減される可能性がある。
Samsung Electronicsはメモリ技術の量産を加速させるべく、韓国のキフン(器興、Giheung)キャンパスに新たな半導体研究開発施設(NRD-K)を建設すると発表した。同社は「高NA(開口数)の極端紫外線(EUV)露光装置などを導入し、1000層を超える3次元(3D)NANDフラッシュメモリや3D DRAMといった次世代メモリ半導体の開発を加速させる」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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