NVIDIAとAMDにとっても、この新たな合意はサプライチェーン上の問題を引き起こしている。アジアで製造したチップを米国でテストしてからアジアに送り返すと、時間とコストが増大する。また、中国からの需要増によって、両社のチップを主に製造しているTSMCにも重圧がかかっている。
NVIDIAはTSMCにH200の増産を要請しているが、H200は上位チップのBlackwellと同じ先進パッケージングを使用している。TSMCの生産能力のほとんどはすでに、MicrosoftやAmazonなどの米国企業向け供給で埋まっている。H200チップを増産すれば、より収益性の高い新しいチップの生産が減少する可能性がある。
NVIDIAは2025年12月にReutersに掲載された声明で「当社はサプライチェーンを継続的に管理している。認可された中国の顧客にライセンス販売しても、米国の顧客への供給能力には影響しない」と述べている。
BISのルールが「国内保護」のための上限を課していることで、事態はより難しくなっている。NVIDIAは、中国に輸出する総TPPが、米国の顧客向けに出荷するTPPの半分を超えないことを証明しなければならない。これは、中国へのチップ供給量と米国のデータセンターでの使用量を連動させる仕組みだ。米国の需要が減少すれば、中国への輸出上限も下がることになり、供給ニーズの予測が困難になる。
だが、NVIDIAの経営層は依然として自信に満ちているようだ。同社のCFO(最高財務責任者)を務めるColette Kress氏は、2025年11月の2026年会計年度第3四半期(2025年8〜10月)決算説明会で、「Blackwellとその後継チップである『Rubin』の売上高が5000億米ドルに達する見通しだ。2025年10月にはTSMCと提携し、Blackwellのウエハーを米国で初めて生産した」と述べた。ただし、「第4四半期については、データセンターコンピューティングの中国からの売上高は想定していない」と述べた。この慎重な姿勢は、現体制下で市場がいかに予測困難であるかを示している。
この新しい貿易体制の安定性は保証されていない。大統領が扉を開いた一方で、議会はその扉に鍵をかけようとしている。
2026年1月21日、下院外交委員会は「AI Overwatch Act(AI監視法案)」を前進させた。この法案はH200の輸出を商機ではなく安全保障上のリスクと見なしている。同月14日の公聴会でBrian Mast議員は「他国にミサイルを売る場合、議会の監視が必要だ。チップにも同じことがいえる」と述べた。この法案は、懸念のある国に特定のチップを輸出するライセンスに対して、30日間の議会審査機関を義務付け、さらに議会がライセンスの遡及的取り消し権限を持つようにすることを提案している。
この立法リスクを踏まえ、NVIDIAは中国企業が同社製品を購入する際の支払い条件を変更した。新たな支払い条件は「代金は生産開始前に全額前払いで支払い、輸出できなくても返金は行わない」というものだ。つまりリスクは全て中国企業が負うことになる。もし議会がこの法案を可決し、出荷前に輸出ライセンスが取り消された場合、ByteDanceやAlibabaは代金を全て失うことになる。
政治的な不確実性が大きい中でも、市場は急速に再接続しつつある。AMDは需要増の恩恵を期待し、2025年第4四半期に中国向けの旧世代チップ販売で3億9000米ドルを計上した。また、MI325Xを新しいTPP上限に基づいて承認してもらうべく取り組んでいる。
AMDにとって中国は、旧世代チップ売り上げの減少を補う貴重な収益源だ。NVIDIAと同様の検査や関税要件をクリアできるかが鍵となる。
貿易の再開は完全なデカップリングの終わりを意味し、新たな段階である「管理された相互依存」の始まりを示している。米国政府は門番として機能し、優れた米国製チップを関税つきで販売することで、中国の技術進歩を遅らせようとしている。
しかし、この均衡は不安定だ。AI監視法案は上院で審議が進んでいて、Iluvatar CoreXなどの中国の半導体企業は2027年までにNVIDIAの技術に追い付く計画を立てている。つまり、現在の貿易の扉は、近い将来閉じる可能性がある。貿易が再開され生産が進んでいるにもかかわらず、2026年2月時点で中国に届いたH200の数は、米中双方の複雑な規制の影響で依然として少ない。2026年、最も価値のある資源は石油でもデータでもなく「コンピューティング能力」なのだ。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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