自由市場から国家主導へ 米国政府の「アメとムチ」で変貌する半導体業界：AI新技術も「事実上の国有化」（1/3 ページ）

米国経済は歴史的に重要な転換点を迎えている。世界を代表するテクノロジー企業が米国への巨額の投資を約束しているが、これは自由市場原理の勝利ではない。経済的／規制的な強制力に基づく産業政策の結果だ。つまり、米国政府は安全保障というレトリックを用いて企業の意思決定に影響を及ぼしたといえる。

[Pablo Valerio，EE Times]

　米国経済は歴史的に重要な転換点を迎えている。連邦政府の権力と民間投資が前例のない形で連携し、重要な変化をもたらそうとしている。また、これが地政学的緊張を招き、世界のパワーバランスに影響をもたらす可能性もある。

　米国政府のAIインフラに対するAmazonの500億米ドルの投資など、世界を代表するテクノロジー企業が米国への巨額の投資を約束しているが、これは自由市場原理の勝利ではない。経済的／規制的な強制力に基づく産業政策の結果だ。つまり、米国政府は安全保障というレトリックを用いて企業の意思決定に影響を及ぼしたといえる。

米国が「アメとムチ」で引き起こす投資の波

　米国政府は「管理貿易」という枠組みの中で、企業の投資の波を引き起こそうとした。それによってグローバリゼーションの伝統的な仕組みを、明確な「アメとムチ」を用いたやり方に置き換えつつある。

　「ムチ」は当然、市場から排除される恐怖だ。「輸入半導体に対する100％の包括的関税」という脅威は、米国のサプライチェーンを再構築するだけでなく、世界の半導体ネットワークの分断というリスクをもたらした。その結果、世界のサプライチェーンや経済の安定が損なわれる可能性もある。そうした威圧によって、米国における工場建設の目的は「設備投資」から「操業許可の取得」へと変貌した。企業は米国に投資を行うことで確実に免除され、市場アクセスを確保するといえる。

　Nokiaは、AI対応スマートフォン、固定アクセス、IP（Intellectual Property）、光デバイス、データセンターネットワークといった領域でのイノベーションを加速するために、戦略を転換した。米国で商務長官を務めるHoward Lutnick氏は、Nokiaの40億米ドルの投資によって「トランプ政権がもたらす米国の勝利」が保証され、「AIやデータセンター、そして安全保障に不可欠なアプリケーションを動かす最もイノベーティブな技術が確実に米国内で開発／製造されるようになる」と語った。

米国に大きな投資をするAmazonとNokia［クリックで拡大］

　一方の「アメ」は、AI国家戦略「Genesis Mission」を通じた組織的統合と戦略的優位性の付与である。この戦略はAI開発を「国防のための実存的な義務」として方向づけ、「民間のAI能力と連邦政府の科学的データやインフラの統合」を義務付けるものである。

　NVIDIA、Dell、Oracleといった企業は、米国の「インフラパートナー」として、自社のハードウェアと専門知識を連邦政府の研究施設群でも利用可能にするよう求められている。これは、AI研究の未開拓分野の実質的な国有化につながる政策だ。