3-1)He供給途絶が最も深刻に影響する工程
He供給が途絶し、高精度な温度制御が失われた場合、最も早期に、かつ最も深刻に影響を受けるのが、高アスペクト比(HAR:High Aspect Ratio)エッチングだ。そして、この影響の直撃を受けるのが、3D NANDのメモリホールのHARエッチングである。
また、2nmノードで本格的に採用されるGAAトランジスタのナノシート形成過程においても、Heによる高精度な温度制御は不可欠である。具体的には、SiとSiGeを交互に積層する際、各層の成膜前に材料表面をプラズマで表面処理する工程や、積層後にSiGeを等方性ドライエッチングで選択的に除去する工程において、精密な温度制御が求められる。加えて、GAAに限らず、FinFETやプレーナ型トランジスタにおいても、高アスペクト比のコンタクトホール形成工程などでは同様にHeによる高精度な温度制御が不可欠である。
3-2)極低温エッチングは先端DRAMや先端ロジックにも拡大
東京エレクトロン(TEL)が開発した極低温エッチング技術「HF/PF3+Cryoエッチング」は、Heによる高精度な温度制御が不可欠な技術の一つだ。
同技術は、3D NANDにとどまらず、先端DRAMおよび先端ロジックにも展開されている(なお、本稿の最終章で技術の詳細を解説している)
DRAMにおいては、キャパシタ形成のための高アスペクト比コンタクトホールエッチングに極低温プロセスが適用されている。3D NANDのメモリホールと同様に、孔形状の制御が温度に強く依存するため、He冷却の喪失は孔形状の劣化とビット不良率の増大に直結する。
最先端ロジックでは、GAAトランジスタの製造工程においてALE(Atomic Layer Etching)が重要な役割を果たしている。なお、GAAのSi/SiGe積層膜からSiGeを除去する工程は、厳密には原子層単位の制御ではないため、「ALEライク」な等方性プラズマエッチングと呼ばれる。この工程において最も重要なのは、Siを残しつつSiGeのみを除去するための高い選択比である。一般に、SiGeのエッチング速度がSiの100倍以上、すなわち選択比100以上が求められる。この高選択比エッチングを実現するには、ウエハー面内の精密な温度制御が不可欠である。
エッチング反応種の吸着はウエハー温度に敏感に依存するため、面内の温度不均一はエッチング除去量のばらつきとして直接現れる。その結果、ゲート長やナノシートチャネル厚に寸法ばらつきが生じ、トランジスタの閾値電圧(Vth)ばらつきを通じてリーク電流の増加やSRAM動作マージンの縮小を招き、最終的に歩留りが量産に許容されない水準まで低下する。
3-3)He無しには成立しない先端半導体のドライエッチング技術
3D NANDのクライオエッチングに始まり、先端DRAMのコンタクトホール形成、先端ロジックにおけるGAAのナノシート形成工程に至るまで、Heによるウエハー面内の精密な温度制御は、プロセスの成立条件そのものとなっている。
従って、He供給が途絶すれば、これらの微細加工は「精度が落ちる」のではなく、プロセス条件を満たせなくなり、物理的に成立しなくなる。最先端半導体は、文字通り「作れなくなる」のである。
4-1)カタール依存65% 韓国が抱える構造的脆弱性
Heショックの影響を最初に、かつ最も深刻に受けるのが、3D NANDの世界シェア1位のSamsung Electronicsと2位のSK hynixである。第3章で述べた通り、両社の3D NAND製造は極低温HARエッチに全面的に依存しており、He供給の途絶はその生産能力を直接的に毀損する。
そして、影響は3D NANDにとどまらない。DDR5、LPDDR5、およびAI需要で急成長するHBMは、いずれも最先端ドライエッチング技術を必要とする。具体的には、HBMにおける8〜12層積層DRAMへの貫通孔形成に用いるTSV工程、さらには最先端のDDR DRAMにおけるコンタクトホール形成をはじめとする高精度ドライエッチング工程は、いずれもHe冷却を必要とする。
韓国がとりわけ脆弱である理由は、Heの調達構造にある。韓国は天然ガス産出国ではなく、He国内生産能力はゼロであり、全量を輸入に依存している。2026年3月11日付の日本経済新聞によれば、その輸入の約65%がカタールからであり、今回のカタール輸出停止は韓国のHe供給の過半を一挙に断つことを意味する。
4-2)在庫枯渇のカウントダウン
2026年3月31日付ロイターの報道によれば、韓国のHe在庫は、カタール輸出停止前の時点で国内月間消費量の約6カ月分に相当するとされている。カタールからの供給が停止した2026年3月から起算すると、本稿執筆時点の2026年4月初旬で、在庫は着実に減少しており、残りは5カ月を切ったとみられる。
一方、代替調達も容易ではない。世界最大の生産国である米国では、Airgasが3月17日にフォース・マジュール宣言を発出しており(第1章参照)、医療用を優先して産業用Heの供給を制限している。
アルジェリア(世界シェア6%)やロシア(同9%)からの調達拡大は、既存契約の有無や輸送インフラの制約から短期的には困難とみられる。スポット市場ではHe価格が急騰しており、仮に一定量を確保できたとしても、大量消費するメモリ製造を持続的に支えることは現実的ではない。
そして、在庫が枯渇すれば、Samsung、SK hynixの3D NANDおよびDRAMの生産は急速に縮小し、最悪の場合、停止に追い込まれる可能性がある注)。
4-3)韓国メモリ停止が引き起こすグローバル・サプライチェーンの混乱
SamsungとSK hynixの2社は、世界のDRAM市場の約70%、NAND市場の約40%を占めている(TrendForce、2025年第4四半期推計)。半導体は韓国の輸出額の約20%を構成する最大の輸出品目であり(韓国関税庁、2025年実績)、両社の生産縮小は韓国経済そのものに直結する。
そして、その影響は韓国にとどまらない。Apple、NVIDIA、AMD、Microsoft、Amazonなどの主要顧客へのメモリ供給が逼迫し、スマートフォン、PC、AIサーバー、データセンターに至るサプライチェーン全体に波及する。世界のDRAM供給の約70%を担う2社の生産縮小は、メモリのスポット価格急騰と納期長期化を同時に引き起こし、影響はエレクトロニクス産業全体に及ぶ。
*注)2026年4月8日付のTrendForceの報道(参考)によれば「ドイツのリンデ社と米国のエア・プロダクツ社(いずれもヘリウム原料を主に米国から調達)が、SamsungおよびSK hynixとの間で新たな長期供給契約を締結した」と、The Elecが伝えている。加えて「両メモリ大手は、危機的状況下での供給安定化を図るため、ヘリウム価格の上昇を受け入れた」とされる。
また、同TrendForceの記事には「聯合ニュースが関係者の話として、韓国政府が半導体用ヘリウムを約4カ月分確保したと報じており、業界関係者からは当面供給に支障はないとの見解が示されている」との記載もある。
仮に、SamsungとSK hynixがリンデ社およびエア・プロダクツ社との間で数年規模の長期契約を締結したのであれば、両メモリメーカーは当面の危機を回避できたことになる。しかし、本報道には「新たな長期供給契約」としか記されておらず、その期間が数カ月なのか、1年なのか、数年なのかは明らかでない。TrendForceの記事後半にある「韓国政府が半導体用ヘリウムを約4カ月分確保した」との記載を踏まえれば、仮にこの契約がわずか4カ月程度のものであった場合、SamsungとSK hynixが危機を脱したとは言いがたい。両メモリメーカーがどの程度の期間にわたるHe長期供給契約を締結したのかが、今後の焦点となる。
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