ここからは、TELが開発した極低温エッチング技術「HF/PF3+Cryoエッチング」の詳細を説明したい。
3D NANDでは、数百層以上に及ぶメモリセルの積層構造を貫通する、深さと直径の比(アスペクト比)が100を超えるメモリホールを開孔しなければならない。そのメモリホールは、12インチウエハー1枚当たり数兆個に達する。そして1本でも形状不良のホールがあれば、周辺のメモリセルが不良となる。従って、ウエハー全面にわたって面内均一なエッチング条件を維持する必要がある。
以下では、この深孔加工について、東京エレクトロン(TEL)が開発し、2023年のVLSIシンポジウムで発表した技術を解説する(詳細は拙稿を参照ください、EE Times Japan、『裏面電源供給がブレークする予感、そしてDRAMも3次元化に加速 〜VLSI2023』、2023年07月26日)。
3D NANDのHARエッチングで広く使われてきたCF系プラズマには、本質的なトレードオフがあった。CF系のポリマーが孔の側壁に堆積することによりボーイング(横方向へのエッチング)を防止する一方、孔が深くなるほどCFラジカルの孔底への到達量が減少し、エッチング速度が極端に低下する。
ここで、ポリマーの堆積を抑制すべくウエハー温度を上げれば、孔底へのラジカル輸送は改善するが、側壁保護が弱まりボーイングが発生する。すなわち、側壁保護と孔底到達はトレードオフの関係にあり、最適化が困難な状態にあった。
TELは2023年のVLSIシンポジウムにおいて、このトレードオフを打破する新手法を発表した(図3)。HFとPF3を混合させた新しいガス系を、−60℃の極低温と組み合わせることにより、孔の側壁への反応生成物などの堆積を大幅に低減しながらボーイングを抑制し、高速なHARエッチングを実現した。
図3:TELが開発した新手法 出所:Yoshihide Kihara et al. (TEL) “Beyond 10 μm Depth Ultra-High Speed Etch Process with 84% Lower Carbon Footprint for Memory Channel Hole of 3D NAND Flash over 400 Layers”, 2023 Symposium on VLSI Technology and Circuits Digest of Technical Papers, T3-2TELの発表論文の図3の中のFig.13には、従来のCF系プラズマとHF/PF3+Cryoのエッチングモデルが示されている。CF系プラズマでは、CF系のポリマーが孔の側壁などに分厚く堆積する。このポリマーはボーイングを防止するが、孔が深くなるほど、孔底に到達するCFラジカルが減少し、エッチング速度が極端に低下する。
一方、HF/PF3+Cryoの場合では、孔の側壁への堆積が非常に少ない。すなわち、反応種のHFは側壁にあまり"食われず"に孔底に供給される。そして、孔の側壁への堆積が少なくてもボーイングを防止できる。その結果、ボーイングなしで、高速なHARエッチングが可能となるわけだ。
図3の中のFig.10をみると、SiNのエッチング速度は温度であまり変わらず、PF3を添加してもしなくても、あまり変化はない。一方、SiO2は、低温にするほどエッチング速度が上がる。また、PF3を添加すると、より高速なエッチングが可能になる。この選択性の温度依存性がクライオエッチの技術的根拠であり、−80〜−100℃とさらに低温化できれば、一層の高速化が見込まれるとされる。
最終結果を図3の中のFig.12に示す。SiO2とSiNの積層膜10μmを、HF/PF3+Cryo(−60℃)の条件で、32.8分でエッチングできた。エッチング速度は353nm/minと非常に高速であり、孔の最大のCDは114nmで、最小のCDは76nmだった。
この発表の本質は、新しいガス系(HF/PF3)と極低温(−60℃)を組み合わせることにより、3D NANDメモリホールの実用的なHARエッチングを実現した点にある。その後、HARエッチングの分野で独占的地位にあった米Lam Researchも追随し、両社間で量産用装置の開発競争が本格化した。
注目すべきは、このプロセスが−60℃以下の極低温を前提条件としている点である。この極低温の維持を支えているのが、極低温チラーとHeによる裏面冷却にほかならない。
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。
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