一方で、米国はHeの世界生産量で43%を占めている。米国はHeショックの影響を受けにくいように見える。しかし、以下の3つの構造的理由から、米国もまた供給制約を免れない。
6-1)米国に影響する3つの供給制約
理由1:長期契約による拘束
米国産Heの大部分は、Linde、Air Liquide、Air Products等のガス大手を通じて長期契約により海外顧客に供給されている。契約上、これらの供給量を国内半導体メーカーへ即時に振り替えることは困難であり、Airgas社が2026年3月17日にフォース・マジュールを宣言して医療用途を優先したのも、国内における自由供給量の不足を反映している。
理由2:物流インフラの物理的崩壊
液体Heの輸送には、沸点である−269℃(4.2K)以下の超極低温を維持する特殊な極低温ISOコンテナが必要である。このコンテナは世界全体で数百基と限定的であり、その運用が滞れば輸送能力は直ちに低下する。
なお、ISOは、International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略であり、船・鉄道・トラックで共通に使える規格サイズのコンテナのことを意味する。
そして、コーンブルース・ヘリウム・コンサルティングのフィル・コーンブルース社長によれば、ホルムズ海峡の閉鎖時点で、1基あたり約100万ドル相当の極低温コンテナ200基以上が中東で足止めされたという(日本経済新聞、2026年4月1日)。世界のコンテナ在庫の相当割合が回転を停止したことにより、米国から東アジアへの輸出を含むHe物流全体が機能不全に陥っている。
理由3:精製能力の上限
Heは天然ガス(LNG)からの随伴ガスとして精製されるため、米国内の精製・液化設備の処理能力には物理的な上限がある。カタール産He(世界生産量の33%)の脱落分を米国単独で代替することは、現在の設備能力では不可能である。
6-2)米国半導体産業への悪影響
この供給制約は、米国自身の半導体製造にも影を落とす。Intelが量産を目指す18Aプロセス(RibbonFET/GAA構造およびPowerViaと呼ぶ裏面電源供給ネットワーク)、Micron Technology(以下、Micron)が拡張中のDRAM/NAND製造拠点、さらにTSMCのアリゾナ工場Fab 21の稼働および大規模拡張計画は、いずれもHeの安定供給を前提としている。
ところが、CHIPS法に基づく米国の半導体国内回帰戦略は、He供給という想定外のボトルネックに直面しつつある。
このように、世界最大のHe生産国である米国ですら供給制約を免れないという事実は、Heショックが特定の地域や企業の問題ではなく、世界の半導体製造能力全体を揺るがすグローバルな構造的危機であることを示している。
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