フォトレジスト世界市場は、日本企業の寡占構造にある。その主要プレイヤーは、以下の5社である(図4)。この5社の合計で世界市場の90%超を占めるとされる(参照:富士経済 2023年版;SEMI Materials Market Data Subscription)。そして、EUVレジストに限れば、この集中度はさらに高く、ほぼ100%に近い。なお、住友化学はEUV領域での実販売規模は外部から把握しにくいものの、EUV関連特許の出願件数では他社を上回る水準にあり、潜在的な技術ポテンシャルは無視できない。
しかし、この日本寡占の裏面で、以下の構造的脆弱性が同居している。
(1)特殊モノマーの川上依存 ArF/EUV用の脂環式メタクリレート、特殊スチレン誘導体の供給元は、世界でも限られる。一部は欧米・中国の特殊化学メーカー(一部は中堅以下)に依存しており、日本の最終レジストメーカーの川上は、必ずしも日本国内で完結していない。
(2)PAG合成能力の集約 特定PAGの合成能力は、実質的に少数の特殊化学メーカーに集中している。3M撤退に伴い、PAG対アニオン原料の供給ベースは確実に縮小する。
(3)半導体グレード精製の特異性 PGMEA等の溶剤を半導体グレードに精製する設備は、汎用品ラインから完全分離されている。ナフサクラッカーの稼働低下は、まず汎用グレードに表れるが、半導体グレード精製ラインは需要が小さいため、原料調達が後回しにされやすい。
(4)PFAS規制の地理的非対称性 ECHAのPFAS規制はEU域内で発効する。日本企業は日本国内で製造したフォトレジストを欧州ファブ(TSMCドイツ、Intelイスラエルとアイルランド、ASMLオランダ、ベルギーimec)にも供給する。日本国内では合法でも、EU向け輸出が規制対象になる可能性があり、サプライチェーンの再編が必要になる。
この構造において、日本は二つの相反する役割を同時に担う。
まず、日本はフォトレジスト供給の最後の砦である。米国・欧州・韓国・台湾の全てのファブが、日本のレジストに依存している。この事実は、日本の経済安全保障上の戦略資産である。
従って、日本のレジスト産業のいずれかが供給制約に陥れば、世界の半導体生産は同時に停止する。これは日本の責任であると同時に、日本一国では解決できない国際課題である。
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