60GHz帯を使う無線接続機能を備えた薄型テレビを市場投入する動きがゆっくりと広がっている。
60GHz帯を使う無線接続機能を備えた薄型テレビを市場投入する動きがゆっくりと広がっている。テレビのディスプレイ部と外付けのチューナ機器を無線で接続するもので、1080pの高品位(HD)映像を非圧縮伝送することが特長だ。
パナソニックが、60GHz帯を使った無線通信規格「WirelessHD」に準拠した薄型テレビを2009年4月に市場投入したのに続いて、ソニーは60GHz帯を使った無線接続機能を備える「ZX5シリーズ」を2009年9月に発表した*1)。同年11月に販売を開始する(図1)。パナソニックの機種では、外付けの無線アダプタをチューナ装置に取り付けて無線接続機能を実現していた。すなわち、無線接続機能はオプション扱いだった。これに対してソニーの機種は、ディスプレイ部とチューナ部それぞれに、無線接続機能を標準搭載した。
韓国LG Electronics社も、WirelessHD規格に準拠した無線接続機能を標準搭載した機種「LH85」と「LHX」を製品化している。オプションから標準搭載への移り変わりは、60GHz帯の無線接続機能の普及に向けた大きな一歩だと言える。
60GHz帯の無線接続機能を標準搭載する難しさは、電磁波の伝送特性にある。60GHz帯は直進性が高く、送信機と受信機の間に障害物があると映像信号が大きく減衰してしまい、最悪の場合、映像を表示できなくなる恐れがある。
テレビの設置環境は利用者ごとにさまざまで、送信側のチューナ装置と受信側のディスプレイ部の間に存在する障害物や周囲の状況は、製品の出荷段階では分からない。従ってこれまでは、標準で有線接続とし、無線接続はオプションという位置付けだった。
ソニーは、障害物の悪影響を防ぐために、「伝送路にある障害物を自動で回避し、別の伝送経路を瞬時に見付け出して接続を継続する機能」(同社の広報担当者)を組み込んだ。その上で、使用シーンをある程度制限する注意を利用者に促すことで、標準搭載に踏み切った。具体的には、チューナ部をディスプレイ部にある程度正対して置くといった点に加えて、両者の距離を50cm以上10m以内にすること、両者を物で覆わないこと、チューナ部を金属製のテレビ・ラック内に設置しないといった注意を促す。
なお、ソニーは2008年11月にディスプレイ部とチューナ部を無線接続可能な「ZX1シリーズ」を発売しており、この機種では5GHz帯を使っていた。一般に5GHz帯の方が、ディスプレイ部やチューナ部の設置自由度は高い。それにもかかわらず、60GHz帯を採用した理由について同社は、電波の干渉の影響が少ないことを挙げた。
パナソニックやソニーのほか、東芝も60GHz帯を利用する無線接続機能を備えたテレビの開発を進めている。しかし、東芝の製品化はしばらく先になりそうだ。
2009年9月に開催されたテレビの新製品発表会で同社のデジタルメディアネットワーク社のTV技師長を務める徳光重則氏は、「技術的には60GHz帯を使った無線接続機能を搭載可能ではあるものの、現時点では部品コストや熱対策の観点から、コスト・パフォーマンスがそれほど高くない。2009年内に発売予定の機種への搭載は考えていない」と説明した。現在の状況については、「WirelessHD規格に準拠した60GHz帯無線チップを手掛ける米SiBEAM社から第2世代のサンプルが届き、評価を始めたばかりだ」(同氏)という。「2010年春のモデルには、まだ早いという印象を持っている。2009年内にハイエンド機種『Cell TV』を発売してその1年後に新機種を発売する場合、無線接続機能を搭載した機種の発売は早くて2010年秋になるのではないか」(同氏)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.