電源部品やLEDドライバなどを手掛けるタキオンは、微弱な交流磁界を検出する磁気センサー・モジュールを開発した。磁界を検出するセンサー素子と、フィルタ処理やA-D変換処理を担当するアナログ回路、デジタル信号処理を施すDSPで構成している。
電源部品やLEDドライバなどを手掛けるタキオンは、微弱な交流磁界を検出する磁気センサー・モジュールを開発した。電波時計や計測機器、医療機器に向けたもので、現在時計メーカーと共同で実用化に向けた開発を進めている。
このセンサー・モジュールは、磁界を検出するセンサー素子と、フィルタ処理やA-D変換処理を担当するアナログ回路、デジタル信号処理を施すDSPで構成している。最大の特長は、センサー素子とDSPを組み合わせたことである。「磁気センサーの分野では、これまでデジタル信号処理を活用するというアイデアはほとんど無かった」(同社の開発部で部長を務める小串憲明氏)という。センサー・モジュールの受信感度は、センサー素子の種類で異なり、薄膜型が4nT程度、ワイヤー型が0.4nTである*1)。
同社がセンサー素子とDSPを組み合わせた理由は主に2つある。1つは、最近になって高性能DSPが安価に入手できるようになったこと。もう1つは、使い勝手が良くなってきたことである。「ここ数年でDSPの開発ツールが充実し、以前に比べてDSPのプログラムが作りやすくなった。5年前だったら、磁気センサーとDSPを組み合わせるのは、コストの観点から現実的ではなかっただろう」(タキオンの小串氏)と説明する。
DSPは、受信感度の調整や復調処理のほか、特定の信号成分だけを抽出する帯域通過フィルタ(BPF:Band Pass Filter)処理や、センサー素子に供給するパルス信号の生成などを担う。雑音レベルの変化に応じて、フロントエンド部のオペアンプの利得を最適な値の設定する仕組みも盛り込んだ。
磁界の検出には、前述のようにアンテナではなく、センサー素子を使った。バー・アンテナやループ・アンテナといった磁気検出用アンテナは受信感度が高いものの、小型化には限界があった。これに対して、磁気センサー素子は、現時点では受信感度は比較的低いものの、小さいという特長がある。
磁気センサーには、「磁気インピーダンス効果(Magneto-Impedance Effect)」を利用する「MIセンサー」を採用した(図1)。アモルファス金属を使った磁性体(アモルファス磁性体)のインピーダンスは、外部磁界の変化に伴って変化する。これが、磁気インピーダンス効果である。アモルファス磁性体で形成したワイヤーや薄膜に外部から何らかの高周波電流(例えば、パルス電流)を供給して、インピーダンスの変化を電圧変化として検出すれば、外部磁界のセンサーとして使えるわけだ。
MIセンサーそのものは目新しいものではない。1992年に当時名古屋大学の教授だった毛利佳年雄氏が磁気インピーダンス効果を発見し、それ以降MIセンサーの開発が始まった。すでに、アイチ・マイクロ・インテリジェントがMIセンサーを使った電子コンパスICを製品化しており、携帯電話機への採用実績もある。「高感度のMIセンサーが1〜2年ほど前から比較的容易に入手できるようになった」(タキオンの小串氏)という。
今回、タキオンはMIセンサーを、センサーを手掛けるある企業と共同で開発した。開発を始めた当初は、例えば薄膜型で30nT程度の受信感度だったという。しかし、外部磁界をセンサー素子に集める集磁構造体を精密に作り込む技術の開発や、アモルファス磁性体そのものの改善によって受信感度を高め、2009年9月には4nTに達した。
今後の課題は、受信感度のさらなる向上である。電波時計の磁界アンテナには0.05nT程度の受信感度が求められる。同社が開発したセンサー・モジュールの受信感度は、ワイヤー型を使った場合で最大0.4nTとまだまだ足りない。「磁性体や集磁構造の改善を引き続き進め、センサー素子に供給するパルス電流の周波数を最適化することで高効率化を図る」(同氏)という。同社は、0.01nT程度の受信感度を目指す。
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