Wi-Fi Allianceは、60GHz帯を使った無線通信規格の策定を手掛ける業界団体「Wireless Gigabit(WiGig)Alliance」と協力することに合意した。
Wi-Fi Allianceは、60GHz帯を使った無線通信規格の策定を手掛ける業界団体「Wireless Gigabit(WiGig)Alliance」と協力することに合意した。Wi-Fi Allianceでは、WiGig Allianceが策定した無線通信規格の認証プログラムの策定を、すでに数ヶ月前から進めている。
60GHz帯の魅力はなんと言っても、1Gビット/秒を越えるような高いデータ伝送速度が得られることである。
かつては軍事や産業といった限られた分野でのみ使われていたが、ここ数年で民生機器に活用する動きが急速に広がってきた。数Gビット/秒のデータ伝送速度があれば、ハイビジョン(HD)映像を圧縮せずに無線で送れる。伝送距離は10m程度とそれほど長くないものの、圧縮による画像劣化を気にせずにケーブルを使わない映像伝送を実現できるわけだ。
60GHz帯に注目している業界団体には、前出のWiGigのほかに「WirelessHD」がある。WirelessHDでは60GHz帯の可能性に早くから注目し、規格の策定を進めてきた。2008年1月には60GHz帯を使った業界初の無線通信規格「WirelessHD 1.0」を発表し、現在は1.0版の次世代規格に相当する「WirelessHD Next Generation」の策定を進めている。すでに、WirelessHDを採用したデジタル・テレビを、パナソニックやソニーなど複数社が製品化している。
さらに、Bluetooth規格の標準化団体である「Bluetooth Special Interest Group(Bluetooth SIG)」も高速化技術の候補として60GHz帯に注目しているようだ。米EE Times誌が2010年10月に報じた。
すでに無線通信規格として策定済みのWirelessHDとWiGigは、双方とも60GHz帯を使う点では共通しているものの、相互接続性は無いとされている。どちらとも狙う用途はほぼ一致しており、Wi-Fi AllianceがWiGigに協力するという発表は、60GHz帯のデファクト・スタンダード(事実上の標準)を巡る競争に一石を投じるものと言える。
「なぜWirelessHDではなくWiGigと協力関係を結んだのか」という本誌の質問に対して、Wi-Fi AllianceのMarketing DirectorであるKelly Davis-Felner氏(図1)は、「今回の協力合意の発表は、排他的な協力関係を結ぶという発表ではない」と答えた。ただ、WiGig Allianceに参加している多くの企業がWi-Fi Allianceにも参加していることや、WiGig Allianceの無線通信規格がIEEE 802.11規格との連携を強く意識したものであることなどが、協力合意に至った背景にあるようだ。
Wi-Fi Allianceでは、WiGig Allianceが2009年12月に発表した無線通信規格(WiGig規格)の認証プログラムの作成を進めている。「WiGig規格のうち、どの部分を認証プログラムに入れるかはまだ決まっていない。ほかの要素技術を取り込む可能性もある」(Davis-Felner氏)。
WiGig規格は、物理層からプロトコル・アダプテーション層までを規定している。データ伝送速度は最大7Gビット/秒で、最新の無線LAN技術(IEEE 802.11n)に比べて10倍以上高速である。ビーム・フォーミング技術を採用することによって、10mを越える伝送距離を実現する。
WiGig規格の最大の特徴は、「IEEE 802.11を拡張したMAC層を利用しており、IEEE 802.11規格と後方互換を確保していること」(WiGig Alliance)だ。通常は、例えばIEEE 802.11nを使いつつ、映像を短時間に送りたいときだけ60GHz帯を使うといった機器を想定している。このように、既存のIEEE 802.11規格で使う2.4GHz帯と5GHz帯に加えて、60GHz帯に対応した機器を、Wi-Fi Allianceでは「Tri-Band Wi-Fi CERTIFIED Device」と名付けた。Wi-Fi Allianceの認証プログラムでは、2.4GHz帯や5GHz帯と、60GHz帯を切り替える(ハンドオーバー)手順も定義する予定である。
WiGig規格は、パソコンや携帯型電子機器、テレビ、Blu-ray Discプレーヤ、デジタル・カメラといった数多くの機器を対象としている。Wi-Fi Allianceはまず、宅内の据え置き型のデジタル家電への採用を意識しているようだ。
Wi-Fi Allianceはこれまで主に、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米電気電子学会)の802.11委員会が策定した国際標準規格の認証プログラムの作成や、市場に製品を投入し普及させるためのマーケティング活動を進めてきた。
これに対してWiGig規格は、IEEEの国際標準規格の策定活動に基づいたものではない。いわば、独自規格である。この独自規格の認証プログラムを作成する理由について、Wi-Fi AllianceのDavis-Felner氏は、「強力な技術があるならば、IEEE規格の完成を待たないこともある」と述べた。実際、IEEE 802.11nについては、IEEE規格の最終完成を待たずに、ドラフト版の段階で認証プログラムの運用を開始させた経緯もある。
IEEEの802.11委員会では、2007年5月にStudy Group(SG)を立ち上げ、IEEE 802.11nの次世代規格に位置付けたIEEE 802.11 VHT(Very High Throughput)規格の策定を進めてきた。2009年1月には60GHz帯を使った「Task Group(TG)ad」が、SGから派生し誕生した。
TGadは、2012年12月の最終承認を目指して、「IEEE802.11ad」の策定作業を進めている。このIEEE802.11adは、WiGig規格と同様に、既存のIEEE 802.11規格との連携を強く意識したものだ。「最終的には、IEEE802.11adの認証プログラムを運用することになるのではないか」という本誌の質問に対して同氏は、「IEEE規格との連携の可能性について、今の段階で決まっていることはない」と述べた。
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