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シリコンチップ上の光導波路に蒸気を封入、「オール光」の量子通信に道プロセス技術

» 2010年09月08日 17時14分 公開
[R. Colin Johnson,EE Times]

 シリコン(Si)チップ上に形成した蒸気封入型の光導波路を使って、光変調されたデータストリームを処理し、光信号の進行を遅らせたりオン/オフを切り替えたりできる技術が登場した。現在の光通信では、光信号に重畳された情報の読み取りやバッファリング、多重化(マルチプレクス)、保存といった処理を行う際に光信号をいったん電気信号に変換しなければならず、そのためにエネルギを消費してしまう。今回の技術は、光信号を光信号のまま処理する「オール光」の光量子通信ネットワークに向けた一歩となる。

 米国のUniversity of California at Santa Cruz(UCSC) Baskin School of Engineeringの電気工学科教授であるHolger Schmidt氏が率いる研究チームが開発した。同教授は、「この技術を利用すれば、オール光のスイッチや、単一光子検出器、量子メモリ素子、そのほかにも興味深いデバイスを作れる可能性がある」と述べている。

 電磁光スイッチングの機能を完全に作り込んだシリコンチップで動作を実証したのは、世界初の成果だという。チップ上に中空コア型の光導波路を形成して、その中をルビジウム(Rb)蒸気で満たし、その光導波路で生じる量子干渉効果を利用した。制御用レーザーの出力を調整することで、光信号のオン/オフを切り替えたり、データストリームの速度を1/2000まで遅くしたりすることができる。

 「制御用レーザーの制御つまみをひねって出力パワーを変えるだけで、光信号の速度を変えられる」(Schmidt教授)。

 ルビジウム蒸気は、制御用レーザーを当てると光信号に対して透過になる特性があり、これを利用して光信号のオン/オフを切り替える。この特性は、ルビジウム原子が2つの量子状態のコヒーレント重ね合わせに置かれることが原因で生じる、いわゆる「電磁誘導透過化(EIT:Electromagnetically Induced Transparency」と呼ばれる現象だ。これによって、量子効果を用いて光信号のオン/オフを切り替えたり速度を遅くしたりすることが可能になり、シリコンフォトニクス・チップを使った量子通信ネットワークの実現に向けた基盤になる可能性がある。

図 UCSCは、4インチ型シリコンウエハーに光導波路アレイを形成した。この写真のウエハーには、光パルス信号の速度を制御するために使える原子分光チップを32個作り込んでいる。

 研究グループはすでに、ルビジウム蒸気を封入したこの光導波路を使って単一チップ上に原子分光器を作製することに成功している。1枚のシリコンウエハー上にこのチップを同時に32個集積した。

 この研究には、米国のBrigham Young Universityの研究者であるJohn Hulbert氏とEvan Lunt氏、Aaron Hawkins氏も貢献した。研究活動の大部分は、UCSCの博士課程の学生であるBin Wu氏が行った。また、米国防総省国防高等研究事業局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)および米国立科学財団(NSF:National Science Foundation)が研究資金を提供した。

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