地球環境問題を背景に、エネルギー分野のみならずエレクトロニクス分野でも、低炭素社会の実現を目指すさまざまな取り組みが活発化している。
情報通信技術を駆使してエネルギーの需給を最適に調整する次世代電力網「スマートグリッド」から、その電力網につながる社会インフラやオフィス、工場、家庭に至るまで、さまざまな単位でエネルギーの無駄な消費を抑えて利用効率を高める「スマート化」が進行中だ。「CEATEC JAPAN 2010」でも、エレクトロニクス機器の大手メーカー各社が「エコ」や「省エネルギー」を前面に押し出した展示を見せていた(図1)。
スマートグリッド、スマートコミュニティ、スマートホーム、スマートデバイス――。こうしたスマート化の取り組みの中でエレクトロニクス技術が共通して担う大きな役割は、エネルギーが「どこでどのように消費されているか」を可視化することだ。最適化を進めるには、まず現状を把握することが不可欠だからである。
今回のCEATECでは、エネルギー消費の可視化に向けた技術展示に多くの来場者が足を止めていた。オフィスや家庭において、機器の消費電力のほか、温度や湿度、人体の位置や数、動きといった各種の環境情報をモニタリングする技術である。
富士通研究所は、オフィス機器の消費エネルギー量の可視化に向けた電源タップ「スマートコンセント」を展示した(図2)。差し込み口ごとの消費電力を測定し、USBインターフェイス経由で外部に出力する機能を備えた電源タップ(コンセント)である。「オフィスにおいて、業務に応じたエネルギーの使い方を把握するには、分電盤や建屋ごとの比較的マクロな単位で消費電力を把握することに加えて、コンセントというミクロな単位で消費電力をきめ細かく把握することも重要である。そこでこのスマートコンセントを開発した」(同社の説明員)という。
差し込み口ごとに電流センサーを内蔵し、その差し込み口に接続した機器の消費電流を測定して、電圧値を掛け合わせることで消費電力を求める仕組みである。電流センサーはクランプ型を採用した。磁気コアとホール素子を使う一般的な手法である。「電磁界シミュレーションを活用し、高精度の電流センサーを新規に開発した」(同説明員)。最大20Aまで、10mA単位で測定可能だという。
このスマートコンセントの利用形態としては、「コンセントで収集したミクロな電力情報を、クラウドコンピューティング環境に集約し、そこで分析や見える化を行って、省エネ活動に活用するといった利用シーンが想定できる」(同説明員)という。スマートコンセントから消費電力情報を出力するインターフェイスについては、今回の開発品ではUSBを採用したが、電力線通信(PLC)やイーサネットなどを利用する方法もあり得るとしており、「今後、ユーザーの意見を聞きながら検討を進めていく」(同説明員)とコメントした。
村田製作所は、スマートホームに向けたモニタリングモジュール「SyNode」を参考出品した(図3)。2次電池の出力電圧モニターのほか、温度と湿度、照度を検出する各センサーを搭載するとともに、ホストシステムとの通信用にZigBee準拠の無線インターフェイスを内蔵したモジュールである。外形寸法は27.9mm×27.5mmで、2.4GHz帯のアンテナも実装済みだ。
同社の子会社で無線モジュールを手掛ける米国のSyChipが開発した。「米国ではすでにサンプル出荷を始めている。現時点では、無線信号の出力レベルも、モジュールの寸法も米国向けの仕様になっており、いずれも日本向けに比べて若干大きい」(村田製作所の説明員)。今回は、国内の法規制値に合わせて無線信号の出力レベルを低く調整した。外形寸法については、「もっと小さくできる」(同説明員)という。
このほかミツミ電機も、スマートホームへの応用を想定した無線電力モニターを参考出品していた。家電機器のエネルギー消費を測定し、アップルのタブレットPC「iPad」に表示するシステムである。「モニタリング専用端末は、技術的に実現できたとしても、高価になってしまうという課題がある。一方で、家庭でも無線LANを利用した無線ネットワーク環境がかなり普及してきた。それならば、無線LAN対応の既存端末をモニタリング端末として利用すればよい」(同社の説明員)。
今回の展示では、電流トランス(CT)を使う市販の電流センサーを利用して、ドライヤーや照明器具などの負荷それぞれに供給する商用交流電源の電流値を測定し、その情報を同社の無線LANモジュールを搭載したマイコンボードに送り、市販のルータ装置経由で無線LAN内蔵のiPadに送信した。その後iPad上で、独自に用意したアプリケーションソフトウエアを使って、各機器のエネルギー消費に関する各種項目を求めて表示している。ただし今回のシステムは無線LANのスマートホームへの応用を示すコンセプト展示であり、製品化の予定は無いという。
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