EDAの大手ベンダー各社は、クラウドコンピューティングに注目している。ただし、米国のカリフォルニア州サンタクララで開催された電子機器設計技術の学会兼展示会「DesignCon 2011」(2011年1月31日〜2月3日)でのパネルディスカッションの様子を見ると、各社とも現時点ではまだ足を地に着けたままのようだ。
EDAの大手ベンダー各社は、クラウドコンピューティングに注目している。ただし、米国のカリフォルニア州サンタクララで開催された電子機器設計技術の学会兼展示会「DesignCon 2011」(2011年1月31日〜2月3日)でのパネルディスカッションの様子を見ると、各社とも現時点ではまだ足を地に着けたままのようだ。
クラウドコンピューティングとは、インターネット上でソフトウエアやサービスを提供する概念だが、遠隔地で稼動するデータセンターの管理は通常、サードパーティ企業に委ねられている。米国のオンラインDVDレンタルサービス「Netflix」のように膨大なユーザーを抱えるウェブサイトや、Salesforce.comなどのビジネス用ソフトウエアプロバイダーも、クラウドを活用してサービスを提供している。しかし、EDAツールのような設計ソフトウエアとなると、その活用は進んでいないようだ。
シノプシスでインフォメーションテクノロジ担当バイスプレジデントを務めるHasmukh Ranjan氏は、「EDA業界はまだ、クラウドコンピューティングが本当にうまく機能するかどうかを検証している状態だ」と述べる(図1)。
Ranjan氏によると、シノプシスは自社のツールをテストしたり、クラウドサービスの展開を検討したりするための手段として、アマゾンの「Amazon Web Services(AWS)」を過去2年間にわたって社内で利用していたという。しかし現在も、ユーザーからのクラウドコンピュータに対する要望を収集している段階にとどまっており、外部に向けたサービスを提供するには至っていないという。
一方、ケイデンス・デザイン・システムズは、すでにいくつかのクラウドサービスを展開している。一部のユーザーに、AWSなどのパブリックな(一般利用者を対象とする)クラウドサービス経由で自社のツールを試してもらうサービスだ。また、ユーザーが社内システム上にケイデンスのソフトウエアをインストールして、社内ネットワークを介して世界各地の拠点から共有できるサービスも提供中である。
ケイデンスで研究開発担当バイスプレジデントを務めるA.J.Incorvaia氏は、「インタラクティブなEDAツールでは、まだネットワーク帯域幅が不十分だ。しかしストレージや、検証やシミュレーションなどのバッチサービスでは、リモートクラウドを利用することができる」と述べた。
このように、最大手のEDAベンダーであるシノプシスとケイデンスは、まだEDAソフトウエア自体をクラウドサービスとして提供する段階には至っていない。ただし、それを実現しているベンダーも数少ないが何社かある。アマゾンのEC2サービス担当ビジネス開発マネジャーであるDeepak Singh氏によると、「MATLABは、一式のソフトウエアプログラム群すべてを、アマゾンのEC2クラウドサービス上で利用できるというオプションを提供している。また比較的小規模なベンダーでも、設計ソフトウエアやエンジニアリングソフトウエアをクラウドサービスに移行している例も少数だがある」という。
さらに、クラウドを適用する上でもう1つの障害となっているのが、ライセンス供与のモデルだ。一部の企業は、従来のライセンス供与モデルのままでクラウドサービスを提供している。しかしアマゾンのSingh氏によると、クラウドベースのソフトウエアには、最終的には「SaaS(Software as a Service)」モデルが最適だという。
EDAベンダーのクラウド活用がこのような状況にある中、アマゾンをはじめとしたさまざまな企業が、ウェブ上で高性能なコンピューティングクラスタを求めるニーズへの対応を進めている。Singh氏によると、アマゾンは2010年7月に、10Gビット/秒のイーサネット接続で利用可能なクラスタノードを提供し、その時点で42T(テラ)FLOPSの性能を実現したという。さらにその後、汎用のGPUコンピューティングノードもウェブ上で提供している。
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