米国のASICベンダーであるOpen-Siliconがユニークなプログラムの提供を始めた。顧客企業の開発スケジュールに合わせ、期日通りに試作チップを届ける。もし守れなければ、物理設計のエンジニアリング費用を50万米ドルを上限に返金する。
ASICの設計・製造を手掛ける米国のOpen-Siliconは、設計エンジニアリングのスケジュール遅延に対する返金保証プログラム「On Time or On Us」を発表した。2011年12月までの期間限定で実施する。同社によれば、こうした取り組みは業界初だという。
Open-Siliconは同プログラムの下、顧客企業の開発スケジュールに合わせて、期日通りに試作チップを届けるという。もし期日を守れなかった場合は、物理設計のエンジニアリング費用を返金する。返金額の上限は50万米ドルである。ただしこのプログラムの適用範囲は、Open-Siliconが経験を有するプロセス技術やIPコア、パッケージングを使う設計に限定されている。従って、28nmプロセス技術や、標準的でないIPコアおよびパッケージングを使う設計には適用されない。
Open-Siliconでプレジデント兼CEO(最高経営責任者)を務めるNaveed Sherwani氏は、このプログラムを提供する理由について、「当社は期日通りに試作品を仕上げる自信がある。また、顧客企業は製品投入時期の重要性を強調しながらも、スケジュールの後半になって設計を変更する場合が多く、それによってスケジュールにずれが生じる可能性もある」と述べている。
同氏は、「当社がこのプログラムを実施する主な理由は、2003年の設立以来8年の間に学んだことにある。すなわち、利益を上げるには、開発(NRE:Non-Reoccurring Engineering)コストについては議論しないということだ。製品が適切な時期に市場投入されることによって得られる成果に比べれば、NREコストは取るに足りない。このプログラムの目的は、当社の顧客企業が製品をスケジュール通りに市場に投入できるようにすることだ。それによって顧客が利益を上げれば、当社も利益を上げられる」と述べている。
12月までの期間限定で実施し、「顧客企業の関心を測りたい」(同氏)という。対象とするのは、40nmと65nmのプロセス技術を適用する設計だ。このプログラムでは、同社が確約した開発スケジュール通りに試作チップを提供できなかった場合に、当初に見積もったNREコストの金額を、50万米ドルを上限として返金する(同社ホームページに掲載されているOn Time or On Usプログラムのページ)。
Sherwani氏は、「期日通りに納品した比率を調べて、社内で毎月報告する」という。スケジュールの予測可能性で90%を目指す。過去の実績は75〜92%でばらついていたが、現在はほぼ85%で安定しているという。
同氏は、「ASIC業界は『なぜ、他の業界のようにスケジュールを予測できないのか』について議論を始めるべきだ。ASIC業界は成熟しているといわれている。成熟した業界であれば、スケジュールを予測できるのが当然ではないだろうか」と述べる。
同氏は、ASICの設計と自動車業界と比較して、次のように語っている。「自動車の組み立ても、ASICの設計と同じくらい複雑だ。それでも、消費者が販売店で車の仕様やモデル、色、アクセサリを選べば、指定した仕様の車が必ず期日通りに納品される。しかし、ASICの設計の場合、スケジュールの遅延はごくまれに生じるものではなく、むしろ当たり前のように起きている」(同氏)。
この違いが生じる理由について同氏は、「自動車業界には、コミットメントがあるからだ」と指摘する。同氏は、ASICの設計でも同じようなコミットメントが必要だと訴えており、「ASIC業界は、設計やテスト、パッケージングに関して当社のような返金プログラムを設けるべきだ」と呼び掛けた。
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