電池の容量が動作時間を決めてしまう携帯型機器に燃料電池を内蔵できれば、市販のカートリッジから燃料を供給し続けることで、機器の動作時間を引き延ばすことが可能だ。東芝はメタノールを燃料とする「Dynario」を開発、3000台の限定販売を開始した。
液体燃料などから直接電力を得ることができる燃料電池が注目を集めている。内蔵二次電池の容量が機器の最大動作時間を決めてしまう携帯電話機などの携帯型機器に燃料電池を内蔵できれば、市販のカートリッジから燃料を供給し続けることで、機器の動作時間を引き延ばすことが可能だからだ。さらに、燃料を注入する時間は数十秒程度と短いため、電池を急速充電するよりも、ユーザーへ訴求しやすい。
携帯型機器に向けた燃料電池の実用化では東芝が先鞭(せんべん)を付けた。2009年10月、メタノールを燃料とするDMFC(Direct Methanol Fuel Cell)方式を採る重さ280gの燃料電池「Dynario」(図1)の販売を開始した*1)。3000台の限定販売である。
*1) 燃料電池は利用する燃料や電解質、動作温度などによって主に5種類に分類できる。天然ガスなども利用できるPEFC(Polymer Electolyte Fuel Cell)とDMFCは70℃〜90℃と比較的低温で動作するため、携帯型機器へ向けた開発が進んでいる。
燃料電池の出力は内蔵するリチウムイオン二次電池と併せた数値のみを公表しており、2W(5V、400mA)であるという。燃料を1回(14ml)注入すると、市販の携帯電話機を約2回充電できるとした。
携帯電話機への内蔵に向けた燃料電池の開発でも東芝が先行している。KDDIは、東芝のDMFC方式の燃料電池を用いた携帯電話機を開発し、2009年10月6日〜10月10日に幕張メッセで開催されたエレクトロニクスの総合展示会「シーテック ジャパン 2009(CEATEC)」で、「燃料電池ケータイ」を展示した(図2)。
携帯電話機への内蔵では、小型化と大出力対応が現在の課題である。「展示した燃料電池は厚さが22mmあるため、本体の裏面に着脱できる構造を採った。燃料電池が不要な場合は一般の携帯電話機のようにリチウムイオン二次電池を内蔵できる。商品化のためには厚さ20mm以下にすることが必要だ」(KDDI サービス・プロダクト企画本部プロダクト企画部商品戦略グループで課長を務める岡真二氏)。
この燃料電池には燃料を3.5ml格納でき、400mWの出力を6時間維持できる。この電力は電話機の待ち受け時間に換算すると約320時間に相当するという。燃料電池部には小容量のリチウムイオン二次電池を内蔵した。
「展示品では燃料電池で動作する時間は約320時間であり、標準のリチウムイオン二次電池で動作する時間とほぼ同等である。商品化の前提は、連続待ち受け時間が1000時間を超えることである」(同氏)とした。
携帯型機器に向けた燃料電池の開発では、パナソニックも試作機を公開している。燃料電池の種類は東芝と同じDMFC型であり、ノートPCへの内蔵や、携帯型機器の外付け充電器としての用途を狙う。
2008年末時点の試作機は、燃料200mlで平均10Wの電力を20時間供給できたとした。試作機は発電した電力を蓄えるリチウムイオン二次電池を内蔵するため、最大出力は20Wだとした。
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