フィリップス エレクトロニクス ジャパンは、「FPD International 2012」において、56インチの4KディスプレイでHDレベルの裸眼3D映像を披露した。これまで裸眼3Dの主な市場はデジタルサイネージだったが、フィリップスは「家庭向けに市場を拡大できる準備が整った」としている。
「これからは家庭のリビングで、HDレベルの3D映像を裸眼で楽しむことができる」――。フィリップス エレクトロニクス ジャパンの担当者はそのように語る。
同社は、横浜市で開催されたフラットパネルディスプレイ関連の展示会「FPD International 2012」(2012年10月31日〜11月2日)において、裸眼3D映像を体験できるデモンストレーションを行った(図1)。展示の目玉の1つが、56インチの4KディスプレイでHDレベルの3D映像を実現したものだ。
これまで裸眼3Dディスプレイは、デジタルサイネージが最も大きな市場だった。フィリップスの担当者は、「デジタルサイネージの役割は、通りかかる人の注目を集めること。3Dの映像はそれだけでインパクトがあるので、デジタルサイネージの用途では画質はあまり問題にならなかった。だが、テレビとなるとそうはいかない。また、PCとは違い、ディスプレイもある程度大型のものが求められる」と語る。「今回、56インチの大型ディスプレイでHDレベルの裸眼3D映像を実現したことで、家庭向けに裸眼3Dディスプレイの市場を拡大できる準備が整った」としている。
フィリップスは、裸眼3Dを実現するために、レンチキュラー方式と呼ばれる方法を採用している。カマボコ状のレンズ(レンチキュラーレンズ)を並べたフィルムをディスプレイの前面に張り付けることで、表示される映像が左右の目それぞれに分かれて届き、映像が立体的に見えるというものだ。フィリップスは、このレンチキュラーレンズの設計や、ディスプレイへの張り付け方法についてIP(Intellectual Property)を保有している。
レンチキュラーレンズは1画素(RGB)に1枚張り付けられるように設計するので、画素の大きさに合わせてレンズを設計する必要がある。同じ大きさのディスプレイの場合は、画素密度が高い、つまり1画素の大きさが小さいほど、レンズの設計が難しくなるという。フィリップスの担当者は、「当社は長年、裸眼3Dの技術を手掛けている。そこで蓄積したノウハウを使うことで、56インチの4Kディスプレイに適したレンズを設計することができた。それによって、HDレベルの裸眼3D映像を実現している」と述べる。
フィリップスは2011年に開催された「FPD International 2011」でも裸眼3Dのデモを行った。このときに使用したディスプレイも56インチ/4Kだったが、今年展示したものは、幾つか改善を施している。
まず1つが、視点数*1)を15視点から28視点に増やしたことだ。裸眼3Dは、見る位置によって3Dに見えないことがあるという課題があるが、視点数を増やすことで、“3Dに見えるエリア”を広くすることができる。
*1)視点数とは、「1つの画素だけが見える方向の数」を指す。例えば2視点であれば、2方向から1つの画素だけが見えるようになっている。3D眼鏡は、2視点である。ただし、視点数が増えると、見る位置が固定されない代わりに3D画質が低下するというデメリットもある。
もう1つが、レンチキュラーレンズの張り付け方だ。これまでは、1枚のレンチキュラーレンズを1画素の両端にぴったり合わせて張っていた。今回は、ややずらして張っている(図2)。これにより、画面に現れる黒い線(モアレ)を減らすことができるという。
裸眼3Dディスプレイの市場拡大を狙うフィリップスだが、課題も残っている。例えば、コストの問題だ。今回、HDレベルの3D映像を実現するために56インチの4Kディスプレイを使用したが、4Kディスプレイの供給体制が整うにはまだ時間がかかる。もちろん、価格がより安い50インチ台のフルHDディスプレイなどにレンチキュラーレンズを張り付けることもできるが、その場合は画質が低下して、HDレベルの裸眼3D映像は実現できない。また、より小さいサイズのディスプレイを使うことも考えられるが、フィリップスとしては、「PCではなくテレビで裸眼3Dを楽しめるようにしたいので、ディスプレイはある程度大きい方がよい」と考えているようだ。
コストの他にも、3Dコンテンツの不足という問題がある。フィリップスの担当者は、「日本でも3D専門のチャンネルなどが登場しているものの、3Dコンテンツの数はまだまだ少ない」と述べている。
なお、レンチキュラーレンズは液晶ディスプレイだけでなく、有機ELディスプレイなどにも張り付けることが可能だ。フィリップスによれば、「3Dの有機ELテレビなども、実現可能だ」という。
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