中国の巨大なTD-LTE市場で勝ち残ることができれば、そのメーカーには大きな成功が約束されているといっても過言ではないだろう。LTEに対応したベースバンドICを手掛けるフランスのSequans Communicationsは、そうしたメーカーの1つだと言えるかもしれない。
China MobileがTD-LTE市場に本格的に参入するのは、まだ何年か先かもしれない。だが、半導体メーカーの間では、世界最大の携帯電話キャリアである同社からの関心を得ようとする戦いが既に始まっている。
ここで鍵となるのはパートナーシップである。ただし、“自社開発主義(NIH:Not-Invented-Here)”にとらわれ過ぎている企業には当てはまらない言葉だろう。
AT&TやNTTドコモ向けにLTE対応のモデムIC(ベースバンドチップ)を開発しているチップベンダーは、市場を支配できそうにない。そうしたベンダーのモデムICは、中国のTD-SCDMAおよびTD-LTEに完全に準拠した方がいいだろう。
だが、現在のTD-SCDMA市場を支配し、かつTD-LTE技術の開発で進展を遂げてきたメーカーのモデムICでも、China Mobileが近々投入する携帯電話機に確実に搭載されるとは限らない。China Mobileは、「世界の全ての無線通信規格に互換性を持つもの」という高いハードルを、モデムICに要求している。
モデムIC市場の来たる戦いで有利な位置にいるのは、間違いなくQualcommだろう。Spreadtrum CommunicationsとMarvell Technologyも強力な競争相手だ。
Spreadtrumは2012年11月に、シングルチップのマルチモードTD-LTEモデムIC「SC9610」が、中国の家電メーカーであるHisenseのデータカードに採用されたと発表した。
このデータカードは、SpreadtrumのRFトランシーバICである「SR3500」と組み合わせると、TD-LTE、TD-SCDMA、GSMの各規格に対応したモードで動作する。Spreadtrumによれば、このデータカードは、LTEの「UE Category3」に対応しており、暗号化アルゴリズムのZUCを搭載しているという。
多くのアナリストは、「Spreadtrumは、今後数年間にChina MobileのTD-LTE対応製品で重要な役割を担う」と予想している。中には、「SpreadtrumがQualcommの行く手を阻む」とする声さえある。
とはいえ、それほど簡単にはいかないはずだ。
Spreadtrumは、TD-LTE、SCD-LTE、TD-SCDMA、WCDMA、EDGEに対応するシングルチップのLTEモデムICを発表していない。Spreadtrum製チップの実力が明らかになるには、2013年以降になるだろう。
筆者は、「China MobileからLTEモデムICを受注する可能性が最も高いのはどのメーカーか」ということにも興味はあるが、それよりも、「欧米メーカーの中に、中国企業とパートナーシップを結び、LTEモデムICを提供するような、賢明かつ鋭敏な企業は存在するのか」という点に大きな関心がある。
そこで目に止まったのが、フランスのSequans Communicationsである。もともとはWiMaxの事業を手掛けていたが、4G対応のチップの開発も始め、現在では中国のTD-LTE市場に台頭し始めている。
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