アナログテレビからデジタルテレビへの革命的な移行の歴史に鑑みると、4K2Kテレビは、「フォームファクタ」、「政治的な後ろ盾」、「経済性」という3点で勢いが足りない。
1つ目の理由がフォームファクタだ。HDTV(高品位テレビ)が遅咲きながら成功したのは、薄型テレビが出現した結果であるところが大きい。テレビメーカーは、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイの洗練された薄型のフォームファクタに便乗してHDTVをアピールし、消費者に熱狂的に受け入れられた。
2つ目の理由は、政治的な後ろ盾の欠如である。1980年代の米国ではHDTVの技術開発が加速した。その背景には、限られた無線放送網の中で帯域幅を追加確保したいと考えていた米国のテレビ放送業界が、連邦議会と連邦通信委員会に対し、米国と日本の競争力に関する課題を解決するカギとして、“デジタルテレビ”*1)を推したことがある。なお、アナログ方式の初代HDTVシステムはハイビジョンと呼ばれ、日本の公共放送局であるNHKが開発した。
*1)ケーブルテレビ向けの機器と半導体のメーカーだった米国のGeneral Instrumentが開発した。
米国のHDTVシステムの勝者を目指して競い合っていた米国の企業数社は、一致協力する道を選び、「Grand Alliance」というコンソーシアムを結成した。Grand Allianceは後に、米国のHDTVの標準規格を策定した。放送業界とGrand Allianceの両者は、米国のデジタルテレビへの移行に欠くことのできない勢力であった。
日本国内では、4K2Kはほぼ間違いなく、主流の解像度になるよう推進されるとみられている。しかし米国では、4K2KはGrand Allianceのようなコンソーシアムや他の主要な利益団体からの後ろ盾がなく、政治的圧力を振るって幅広い普及を図ることができない。
3つ目の理由は、販売価格の高さである。米国では、4K2Kテレビは、「1%の富裕層のための究極の映像玩具」であり、共和党のMitt Romney氏の政策に例えて「Romneyvision(ロムニービジョン)」と呼ばれている。当分の間、“富裕層のための遊び道具”という4K2Kテレビの位置付けは変わらないだろう。
Accentureのエレクトロニクス/ハイテクグループでシニアエグゼクティブを務めるKumu Puri氏は、「4K2Kテレビの2万米ドルという想定価格は、大量生産するには高すぎるかもしれない。4K2Kテレビ向けコンテンツがまだ商用化されていないという状況では、特にそう感じられるだろう」と述べた。「高すぎるかもしれない」とは驚きだ。明らかに「高すぎる」だろう。
Puri氏は、「消費者が4K2Kテレビにもっとなじみを覚え、メーカーが価格を下げ、コンテンツが4K2Kテレビ向けフォーマットに対応すれば、この市場は勢いづくだろう」と付け加えた。
テレビメーカーは薄型テレビで利益を確保する方法を模索しており、採算の取れないテレビ事業を起死回生に導く「付加価値」を切望している。テレビメーカー各社は、付加価値を生み出すべく、インターネットテレビや3Dテレビ、Google TVなどを投入してきた。そして編み出した最新の一手が4K2Kテレビである。だが、消費者が、債務を負った企業のテレビ事業を救いたいという同情心から製品を買うことはないのだ。
しかし、いちるの望みはある。Broadcomでアソシエイトプロダクトラインディレクタを務めるJoseph Del Rio氏が言うように、「最高の画質には、抗いがたい魅力がある」。同氏は、「米国の家電量販店(チェーン店)の最大手であるBest Buyの販売員に尋ねたところ、店舗を訪れる客が購入するのは、展示しているテレビの中で最も画質の優れた製品だという答えが返ってきた」と述べている。解像度が、3Dテレビやスマートテレビに勝利する日が来るかもしれない。
【翻訳:滝本麻貴、平塚弥生、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.