長く仕事をする上で、キャリアデザインというのはとても重要です。キャリアデザインには、社内異動の他、より高みを目指すための、あるいはキャリアチェンジのための転職も含まれるでしょう。しかし、転職雑誌やサイトで目立つ「キャリアは自分で切り開け!」という言葉に踊らされてはいけません。そもそもキャリアデザインというのは、それほど簡単なものではないからです。まずは、筆者が提示する「3つの質問」について答えを考えてみてください。
大手企業では、教育・研修などの人材育成プランがしっかりと作られているので、新卒・若手エンジニアが自分のキャリアについて悩んだとしても、解決方法は身近にいくらでもあることでしょう。自分でキャリアを切り開く必要はなく、会社が敷いたキャリアデザインに沿って行けば、結果的に会社が求める人材になるはずです。
ところが、キャリアデザインは業界によって異なります。例えば、エンジニアと一言で言っても、読者の皆さんのようなエレクトロニクス系エンジニアと、Webやスマートフォンのアプリケーションを開発するエンジニアでは、キャリアデザインについてずいぶんと違いがあります。
後者は、20代、30代前半で若くして成功したWeb系エンジニアや起業家がやたらと目立ち、ごく一部のトップエンジニアたちが“Geek(ギーク)”としてあがめられる世界です。エンジニア向けの転職サイトやマスメディアの記事も良くないのでしょうが、このWeb系若手エンジニアのサクセスストーリーをドラマチックに脚色して書き立てます。「会社から学ぶことは何もなかった!」「稼げるフリーのエンジニアを目指せ!」「キャリアは自分で切り開け!」というような見出しが目を引きます。
これらの記事を読んだエレクトロニクス系エンジニアが、「じゃあ、自分も……」とまねをして、Webサービスやスマートフォンのアプリ開発に進むこともアリかもしれませんが、それは本業の枠ではありません。「キャリアは自分で切り開け!」という記事が目に入ったら、エレクトロニクス系エンジニアの皆さんは読み飛ばしてしまいましょう。そもそも、キャリアデザインなど、そう簡単にできるものではないからです。
さて、筆者は開発部門の若手エンジニアに対して、かれこれ15年ほど前から下記の3つの質問を投げかけることを行っています。
Q1:できることは何ですか?
Q2:やるべきことは何ですか?
Q3:やりたいことは何ですか?
最初の2つは比較的すぐに返事が戻ってきます。
Q1は、これまでの自分の経験や、開発に具体的に携わってきた過去の仕事が答えになります。
Q2については、自分で明確に目標を決めて、「今年中にこのレベルのエンジニアになる」と決めているしっかり者もいますが、多くは「会社や上司が決めたこと」と答えます。特に若手エンジニアにはこの傾向が強く、20代後半くらいになってくると「こうあるべきだ」という自分の主張が現れてきます。
さて、最後のQ3ですが、これがなかなか答えられません。Q1、Q2とは異なり、「未来のこと」を語らなくてはならないからです。
このように、キャリアデザインは「未来のこと」を描かないと考えることができません。未来が描けたとしても、そこにたどり着くにはどのようなプロセスを踏めばよいのか、どのような経験を積めばよいのか、それに対して今は何が足りないのか。このように冷静な自己分析が必要となります。
キャリアデザインなど、そう簡単にはできないとお伝えしたのは、このような理由からです。もちろん、「25歳までにこうなる。30歳までにはこうなる」と、きちんと考えている人もいます。ちなみに、15年前のエンジニアと最近のエンジニアを比べても、この3つの質問の返答はほとんど変わっていません。
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