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スパコン「京」で重レアアースレス磁石開発を加速!材料技術

富士通は、スーパーコンピュータ「京」を用いて、永久磁石が磁化反転する課程を大規模にシミュレーションすることに成功したと発表した。これにより、磁性体を詳細に解析できるようになり、重レアアースを使用しない強力なネオジム磁石など新たな磁性材料の研究開発が促進されるという。

» 2013年09月06日 17時50分 公開
[EE Times Japan]

 富士通は2013年9月5日、スーパーコンピュータ「京」を用いて、永久磁石が磁化反転する課程を大規模にシミュレーションすることに成功したと発表した。これにより、磁性体を詳細に解析できるようになり、重レアアースを使用しない強力なネオジム磁石など新たな磁性材料の研究開発が促進されるという。

 ネオジム磁石は、最も強力な磁石とされ、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)のモーターなどに使用される。ただ、EV/HEV用モーターに用いられるネオジム磁石には、ジスプロシウムなどの「希少な希土類元素(重レアアース)」が使用される。ジスプロシウムは地球上の存在比がネオジム※1)の10%程度であるため、使用量の削減が大きな課題となっている。

※1)ネオジムは、希土類元素(レアアース)だが、銅やニッケルなどの普通金属と同様に地球上に存在する。

 そのため、重レアアースを使用しないネオジム磁石の開発が進められているが、開発には、磁化反転の課程をより正確、高速にシミュレーションする必要がある。

これまでは、計算量が膨大で「困難だった」

 しかし、磁化反転のシミュレーションには、磁性材料の詳細な構造を把握し、忠実なモデルを作らなければならないが計算量が膨大で、「磁化反転の課程をシミュレーションで再現することは困難だった」(富士通)という。

 磁性体は、磁区と呼ばれる領域で微小に分かれている。また、磁区と磁区の間には磁壁と呼ばれる遷移領域が形成され、これらを忠実にモデル化しなければならない。

 今回、富士通は、ネオジム磁石のモデルを作る方法として、数値解析手法の1つである有限要素法の手法とマイクロマグネティックス※2)の手法を組み合わせた手法を開発。ネオジム磁石の多結晶モデルを用い、計算領域を1ナノメートルの微細な領域に分割することで磁壁と呼ばれる磁化の遷移領域の挙動を計算した。計算には、大規模な並列計算技術を用いてスーパーコンピュータ「京」で実行した。「これまでのシミュレーション技術では困難だった磁壁の移動や磁化反転が進行する様子を解析することが可能になった」(同社)とする。

※2)磁性材料の内部の微細な磁化状態を解析する手法。計算機シミュレーションにおいては磁性材料を数原子程度の領域に分割する必要があるため膨大な計算時間を要する。

ネオジムの多結晶モデルのイメージ 出典:富士通
多結晶モデルの磁化反転のシミュレーションのイメージ 出典:富士通

 富士通では今後、「文部科学省の元素戦略プロジェクトにおける元素戦略磁性材料研究拠点と連携して、スーパーコンピュータ“京”による超大規模な計算を継続実施し、マイクロマグネティックス手法と第一原理計算(原子レベルにおける物質の特性を量子力学に基づく計算手法)による材料設計を融合した“マルチスケール磁石シミュレーター”の開発に貢献していく」としている。

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