ラジオやテレビの英語講座では、明るくユーモアたっぷりで、決断力にあふれた米国人がしばしば登場します。果たして、米国のオフィスにはこのような人物が本当にいるのでしょうか? さらに、赴任となると、思いもよらない事態に見舞われることもあります。私の場合、9.11のテロが、まさにそれでした。実践編(米国滞在)となる今回は、赴任中に非日常な出来事が起こった場合の対処法について、お話します。
われわれエンジニアは、エンジニアである以上、どのような形であれ、いずれ国外に追い出される……。いかに立ち向かうか?→「『英語に愛されないエンジニア』」のための新行動論」 連載一覧
あの悪夢の「2001年9月11日」に、私たち家族が正確な情報を把握しきれず、どれほどおびえたことかを説明するのは難しいです。
第一報は嫁さんの実家からでした。『とにかくテレビをつけなさい』と言われて、テレビをつけた瞬間、世界貿易センタービルが崩れ落ちるところが映っていたのです。画面の左下で点滅する赤い小さな"LIVE"という文字と、悲鳴のような声で叫ばれ続ける意味不明のアナウンス。
この後、日本領事館から、再三にわたるテロ警戒勧告が舞い込み、炭疽(たんそ)菌入りの封書が混入していたとの疑いから、私たちが住んでいた街の郵便局が閉鎖された時、我が家の恐怖はピークに達しました。
――米国は、テロへの報復として、核攻撃を行使するかもしれない。
あの時点では、本当にあり得る話でした。そして「攻撃」には報復が付きものです。
私が住んでいた米コロラド州には、全面核戦争を想定した、北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)がありました(翌週に、大陸間弾道ミサイル[ICBM]の見学ツアーを予定していました。当然、キャンセルになりましたが)。「テロリストなら、真っ先にそこを攻撃してくるだろう」と、素人の私でも予測できました。
とにかく逃げるべきだ*1)。せめて家族だけでも帰国させなければ……と思っていたところに、全米で全航空機の飛行停止命令、デンバー国際空港の完全封鎖。
*1)「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(13):トラブル遭遇時の初動方針は、「とにかく逃げる!」
どこにも、逃げられないじゃないか
私の過去のトラブル事例の引き出しを、どれだけ引っくり返してみても「核攻撃から逃れる方法」の検索結果を見つけることはできませんでした。
こんにちは。江端智一です。
今回は、ちょっと普通のリポートではみられない、「英語に愛されないエンジニア」の海外赴任生活の実体を、本音ベースで報告します。しかも、「近所に住むジョージとバーバラとのたわいない日々の会話」ではなく、私が体験した非日常的な出来事をラインアップしてみたいと思います。
その上で「英語に愛されないエンジニア」が、非日常的トラブルに遭遇した時の対応方法や、コミュニケーション手段について考察します。
また、米国には、本当にNHKのラジオ・テレビ語学講座に登場するような、理知的で、誠実で、ユーモアと決断力にあふれる米国人は実在するのか否かについても、併せて考察してみましょう。
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