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百戦錬磨のエンジニアが教える、「開発コストを減らす4つのコツ」(前編)いまどきエンジニアの育て方 ―番外編―(2/2 ページ)

» 2013年10月30日 19時00分 公開
[世古雅人,カレンコンサルティング]
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「いまどきエンジニアの育て方」の内容を、地で行くベテランエンジニア

 Aさんは40代後半。X社には10年ほど前に中途で入社している。

 全従業員数万人を誇るX社には、何度か筆者も訪問をしたことがある。中途入社の社員よりも圧倒的にプロパー社員の比率が高く、社員の特性としては“真面目な優等生”が多い。Aさんは元々は、ハードウェアエンジニアであるが、筆者も含めてこの世代のエンジニアは組み込み機器向けのソフトウェア開発ができる人も多く、Aさんもその1人だ。プライベートでは、日本酒には目がなく、休日にはバイクでツーリングを楽しむAさんは、若手のエンジニア育成にも熱心で部下からの信望は厚い。

 そんなAさんもX社に転職したばかりの数年は、なかなか同社の社風になじめなかったという。「企画やマーケ(マーケティング)が言う通りのモノを作ることが開発の仕事である」――。そんな社風に対して周囲のエンジニアが疑問を持っていなかったこと、開発部門に覇気が感じられなかったこと、どことなく部門間でギスギスしたセクショナリズムがあることなど、Aさんが気になったことは多々あった。このような開発現場を何とかしたいと奮闘してきたAさんは、時には社内でこてんぱんにたたかれながらも、開発現場を変えるための取り組みを続けたのである。

 実は、Aさんは、連載「いまどきエンジニアの育て方」に登場する人物のモデルの1人である。彼が実際にX社で取り組んできたことは、開発現場におけるマネジメント改革そのものだ。一人ひとりのエンジニアと向き合い、上層部と掛け合い、利害関係部門とやり合いながら取り組んできた。取り組んだ領域は「開発」にとどまらず、「組織」「マネジメント」「企画・マーケティング」「理念・ビジョン」「コンセプトメイキング」「人材育成と教育」など多岐にわたる。

 これらに関する取り組みを、Aさんは管理職になる前の主任クラスの時から、地道に続けてきた。その結果、開発部門には活気が戻り、エンジニアとしての専門性がより高まっただけでなく、マネジメント要素を身につけた若手/中堅エンジニアが育ち、今では企画・マーケティング部門よりも開発部門がたたき出す市場予測や動向、競合情報の方が、精度が高いという。企画もマーケもできるメンバーがそろった開発部門となったのだ。

 「いったい、Aさんとはどんなスーパーマンなんだろう」と思うかもしれない。だが、見た目は温厚で物静かなエンジニアだ。しかし、内に秘めた、開発にかけるエネルギーと部下への思いにはすさまじいものがある。コンサルタントとして多くのベテランエンジニアや管理職に会ってきた著者だが、Aさんタイプの開発エンジニア(それも部長クラスの)は極めて少ないと断言できる。Aさんのような開発部長が多く存在すれば、日本の製造業の開発部門はもっとよくなるのでは……と思うほどである。

「普通のことを普通に実行する」

 Aさんの口からはよく、「普通のことを普通に実行する」と出てくる。「いったい何のこと?」と思うだろうが、読んで字のごとくで、突飛で奇抜なことをしなくとも、普通にしていれば結果は後からついてくるという考えである。これを最初に聞いたとき、筆者は、「松下幸之助の“雨が降れば傘をさす”と通じるものがありますね」と言ったのだが、Aさんからはすかさず「当たり前のことを当たり前にやるって難しいですよね」と返ってきた。さり気なく、経営書も読破しているAさんだ。

 中途入社のAさんは、最初の頃は、X社で相当苦労した。「普通のことを普通に実行すること」の難しさも身をもって経験したからこそ、Aさんが言う「普通」には重みを感じるのであった。

後編に続く


Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。2012年4月から2013年5月までEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』のコラムを連載。


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