先日、出張で、私の席に立ち寄った後輩が、私の仮説検討の進捗状況を聞きにやってきました。
後輩:「で、先月、『ひと通り合理的に説明できる1つの仮説を持っています』と、偉そうに豪語していた江端さんの仮説とやらは、何ですか?」
江端:「私の仮説は、『AKB=肥満アイドルグループ』論だよ」(【仮説9】)
つまり、私は、「痩身が美しいと認識される」のではなく、「遺伝子が『子孫を残しやすい健康体』であると誤認」して、それが「『美しい』と感じるように錯覚させている」と考えたのです。
この裏を取るために、データとして使える旧石器時代(1万8000年前)の日本人と、その以後の日本人の人体データ*)を用いて、検証作業を開始しました。
*)「日本人のからだ―健康・身体データ集」(鈴木隆雄 著、朝倉書店 1996年4月)
旧石器時代の日本人の身長(女性)は144cm、今の小学生5年生程度の身長です。AKBの平均身長が159cmですので、相当に小柄と言えます。平均寿命は14.6歳ということから、私の仮説は正しいかのようにも思えました。
ところが、旧石器時代の日本人の体格を調べてみると、貧相な体格ではなく、下半身などに至っては現代人より頑丈だったようです。確かに、食料事情は良くなかったかもしれませんが、年がら年中、飢えていたというわけでもなかったはずです。もしそうなら、彼等は存続することができなかったはずです。
旧石器時代は、狩猟をベースに生きていますので、毎日のように山や海をかけ回っており、エネルギー消費量は高く、そのため現代の私たちよりも、食事から摂取するエネルギーは多かったようです。幼児期の病死率が高いために平均年齢が引き下げられていますが、5歳を経過すれば、その後の平均余命は20年も跳ね上がっています。
そして、何より、ほんの100年前まで女性は多産だったのです。
初潮から閉経まで、常に妊娠と出産と、そして子どもとの死別を繰り返すハードな人生を生き抜いていました(今でも、そういう国はありますし、日本も100年前まではそんな感じでした)。
以上の検証より、
痩身体型を、出産に理想的な体型と「誤認」する遺伝子が組み込まれた ―― という、江端の仮説『AKB=肥満アイドルグループ説』は、ここに崩れ落ちることになったのです。
ところで ―― この連載、「世界を数字で回してみよう」の読者の皆さんの中には、
『江端は最初から、結論を知っていて(あるいは計算を終了していて)、その後で、コラムの内容を、おもしろ、おかしく組み立てている』
と、信じている人がいるようですが、残念ながら、そんな「クール」で「ナイスガイ」なこと、私はできていません。私は大抵の場合、原稿の執筆とデータ解析を、同時進行で行っているのです。
この「締切直前に、『自分の仮説に裏切られる』という恐怖」を、どうやったら読者の皆さんに理解してもらえるだろうか ―― と、最近、そんなことばかりを考えています。
閑話休題。
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