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ダイエットへの欲望は“種存続の危機”に勝るのか世界を「数字」で回してみよう(18)(5/8 ページ)

» 2015年08月24日 11時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「AKB=肥満アイドルグループ」論

 先日、出張で、私の席に立ち寄った後輩が、私の仮説検討の進捗状況を聞きにやってきました。

後輩:「で、先月、『ひと通り合理的に説明できる1つの仮説を持っています』と、偉そうに豪語していた江端さんの仮説とやらは、何ですか?」

江端:「私の仮説は、『AKB=肥満アイドルグループ』論だよ」(【仮説9】

  • AKBグループは、現代であれば、いわゆる「痩せすぎ」のグループに属するかもしれないが、食料事情が劣悪だった古代においては、それでも、十分に太った健康体であり、出産リスクの低い、理想的な体型であった
  • 古代人の平均年齢を軽く超えていながら、人前で飛んだり跳ねたり踊ったりする彼女達は、私たちの遺伝子の記憶の中では、ほとんど「神」と同視できるほど、希少価値のある奇跡の生命体であった

 つまり、私は、「痩身が美しいと認識される」のではなく、「遺伝子が『子孫を残しやすい健康体』であると誤認」して、それが「『美しい』と感じるように錯覚させている」と考えたのです。

 この裏を取るために、データとして使える旧石器時代(1万8000年前)の日本人と、その以後の日本人の人体データ*)を用いて、検証作業を開始しました。

*)「日本人のからだ―健康・身体データ集」(鈴木隆雄 著、朝倉書店 1996年4月)

 旧石器時代の日本人の身長(女性)は144cm、今の小学生5年生程度の身長です。AKBの平均身長が159cmですので、相当に小柄と言えます。平均寿命は14.6歳ということから、私の仮説は正しいかのようにも思えました。

 ところが、旧石器時代の日本人の体格を調べてみると、貧相な体格ではなく、下半身などに至っては現代人より頑丈だったようです。確かに、食料事情は良くなかったかもしれませんが、年がら年中、飢えていたというわけでもなかったはずです。もしそうなら、彼等は存続することができなかったはずです。

 旧石器時代は、狩猟をベースに生きていますので、毎日のように山や海をかけ回っており、エネルギー消費量は高く、そのため現代の私たちよりも、食事から摂取するエネルギーは多かったようです。幼児期の病死率が高いために平均年齢が引き下げられていますが、5歳を経過すれば、その後の平均余命は20年も跳ね上がっています。

photo 画像はイメージです

 そして、何より、ほんの100年前まで女性は多産だったのです

 初潮から閉経まで、常に妊娠と出産と、そして子どもとの死別を繰り返すハードな人生を生き抜いていました(今でも、そういう国はありますし、日本も100年前まではそんな感じでした)。

 以上の検証より、

 痩身体型を、出産に理想的な体型と「誤認」する遺伝子が組み込まれた ―― という、江端の仮説『AKB=肥満アイドルグループ説』は、ここに崩れ落ちることになったのです


 ところで ―― この連載、「世界を数字で回してみよう」の読者の皆さんの中には、

『江端は最初から、結論を知っていて(あるいは計算を終了していて)、その後で、コラムの内容を、おもしろ、おかしく組み立てている』

と、信じている人がいるようですが、残念ながら、そんな「クール」で「ナイスガイ」なこと、私はできていません。私は大抵の場合、原稿の執筆とデータ解析を、同時進行で行っているのです。

 この「締切直前に、『自分の仮説に裏切られる』という恐怖」を、どうやったら読者の皆さんに理解してもらえるだろうか ―― と、最近、そんなことばかりを考えています。

 閑話休題。

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