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「半導体業界の“Apple”を目指す」ルネサス米国発の設計基盤「Synergy」で(3/3 ページ)

» 2015年11月20日 13時20分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]
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IoT機器開発を“民主化”する

REAのプレジデントを務めるAli Sebt氏 REAのプレジデントを務めるAli Sebt氏

 Synergyは、REAの構想から始まった、いわば“シリコンバレー発”の製品だ。REAのプレジデントを務めるAli Sebt氏は、Synergyが生まれる背景には、3つの要因があったと語る。

 1つ目が、ソフトウェアに対するニーズだ。「REAの顧客は当然ハードウェアメーカーが多い。ソフトウェア開発まで十分なリソースが割けない場合もあるので、どんなに単純なソフトウェアでも、チップと一緒に提供すると非常に喜ばれることに気付いた」(Sebt氏)。

 2つ目が接続性だ。「組み込み機器は、接続性を追加しようとすると設計が一気に難しくなる。自社だけでは設計できない唯一の機能が接続性だ。認証や、相互接続性の確保といった問題から、大手メーカーですら接続機能に関連するソフトウェアを開発するリスクは冒したがらない。一方で、(IoT市場の盛り上がりから)接続性に対するニーズは高まっている。そこでわれわれは、単純なソフトウェアを提供するだけでも顧客に喜ばれるのなら、接続性の実現に不可欠だが開発がより複雑になるRTOSを提供すれば、顧客がもっと喜んでくれるのではないかと考えた」(Sebt氏)。

 3つ目がスマートフォンなどにみるアプリの登場だ。Sebt氏は、アプリ市場を「民主的」だと表現した。いったんアプリとしてリリースされれば、ユーザー側からは、そのアプリが高校生が開発したのか、エンジニアが開発したのかなど、誰が開発したのかは見えない。開発者にとってアプリ市場というのは、誰もが参入でき、平等に競争できる場所になる。「われわれが、もしIoT機器の開発を“民主化”できれば、より多くのメーカーが参入できるようになり、市場の拡張が加速するのではないか」(同氏)。

 こうした背景から、RTOSからミドルウェア、通信スタックなどを全てプラットフォーム化するSynergyの構想が生まれたという。

ソフトウェアから開発が始まったSynergy

REAのPeter Carbone氏 REAのPeter Carbone氏

 ルネサスは、Synergy向けのマイコンとして、Renesas Synergy Microcontrollersを新しく開発している。通常は、マイコンを開発してから、それを動作するソフトウェアを開発する。だが、Synergyは逆だった。まずはソフトウェアアーキテクチャを設計してから、それで動作するようなマイコンを作り込んだのだ。Carbone氏は「プロジェクトの遅延や予算の超過、接続性の実現など、顧客が抱えている問題のほとんどが、ハードウェアではなくソフトウェア起因であることに気付いた。

 そこで、Synergyでは、“一度書けば、何度でも使える”、そんなソフトウェアをまず開発しようという話になった」と説明する。それ故、既存のマイコンファミリを使うわけにはいかず、Renesas Synergy Microcontrollers向けに多くのIP(Intellectual Property)を再設計したという。Sebt氏は、「マイコンを知り尽くしたルネサスだから、できたこと」だと強調する。Carbone氏は、「既存の主要ファミリである『RX』『RZ』『RL』は長い成功の歴史があり、既に今後のロードマップが決定していることに加え、顧客にも長期的なサポートを約束している。このロードマップを変更することはできなかった」とも述べている。

 Renesas Synergy Microcontrollersの今後の性能向上については、マルチコア化なども考えているという。

半導体業界の”Apple”になる

 Carbone氏は、PCではIntelのプロセッサやMicrosoftのOS(Windows)がプラットフォームとなったように、スマートフォンではiOSやAndroidがプラットフォームとなったように、IoT機器でもプラットフォームが登場するのは自然な流れだったのではないかと話す。Sebt氏は、「より多くの開発者に、Synergyのエコシステムに参加してもらいたい」と述べ、「個人的には」と前置きした上で、「Synergyによって半導体業界において、“Apple”のような存在になることを目指したいと考えている」と語った。

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