理化学研究所の尾坂格上級研究員らの共同研究チームは、新開発の半導体ポリマー「PNOz4T」を用いて、有機薄膜太陽電池(OPV:Organic Photovoltaics)の光エネルギー損失を、無機太陽電池並みに低減することに成功した。
理化学研究所 創発物性科学研究センターの尾坂格上級研究員、瀧宮和男グループディレクタと京都大学 大学院工学研究科の大北英生准教授らの共同研究チームは2015年12月、新開発の半導体ポリマー「PNOz4T」を用いて、塗布型有機薄膜太陽電池(OPV:Organic Photovoltaics)の光エネルギー損失を、無機太陽電池並みに低減することに成功したと発表した。同時に高いエネルギー変換効率も得られた。
PNOz4Tは、同じ研究チームが2012年に開発した半導体ポリマー「PNTz4T」の分子構造を改良した。いずれも吸収可能な太陽光エネルギー(バンドギャップ)は、約1.5eVでほぼ同等だが、PNOz4Tを用いたOPV(PNOz4T素子)は、1.0Vの出力電圧が得られた。これまで作製したPNTz4T素子の0.7Vに比べて、はるかに高い出力電圧が得られた。
この結果、PNOz4T素子の光エネルギー損失は約0.5eVとなり、無機太陽電池並みの小さい値となった。ちなみに、PNTz4T素子の光エネルギー損失は約0.8eVである。エネルギー変換効率はPNOz4T素子が約9%である。PNTz4T素子の10%にはわずかに及ばないものの、一般的なOPVの場合は1〜6%程度にとどまっており、これらと比較すれば高い数値となった。光エネルギー損失が小さいOPVとしては、世界最高レベルのエネルギー変換効率を達成したという。
京都大学の研究チームは、PNOz4Tを用いることで光エネルギー損失を低減できた要因についても、分光法を用いて解析した。OPVは、太陽光エネルギーで半導体ポリマーが励起される。エネルギーが高い励起の状態から、エネルギーの低い電荷移動の状態に変化する際に電力を発生する。励起状態と電荷移動状態とのエネルギー差が駆動力となる。しかし、この駆動力はエネルギー損失の一因にもなるという。
PNOz4T素子では、エネルギー差がほぼゼロにもかかわらず、電力を生じることが分かった。これによって、光エネルギー損失が低減されると同時に、出力電圧も高くなることが明らかとなった。さらに、材料や成膜プロセスなどを改良し、PNOz4T薄膜の膜質を改善すれば、電流を増大させることが可能なことも分かった。このことは、エネルギー変換効率のさらなる向上につながる可能性もあるという。
研究グループによれば、今後PNOz4Tの性質を最大限に引き出すことで、素子のエネルギー変換効率は、実用レベルといわれる15%まで引き上げることが可能とみている。当面、研究チームは今回の成果に改良を加えながら、2016年度中には12%達成を目指す計画である。
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