理化学研究所(理研)の尾坂格上級研究員らによる研究チームは、有機薄膜太陽電池(OPV:Organic Photovoltaics)のエネルギー変換効率と耐久性を同時に向上させることが可能な半導体ポリマー「PTzNTz」の開発に成功した。
理化学研究所(理研)の尾坂格上級研究員らによる研究チームは2015年9月、有機薄膜太陽電池(OPV:Organic Photovoltaics)のエネルギー変換効率と耐久性を同時に向上させることが可能な半導体ポリマー「PTzNTz」の開発に成功したことを発表した。
理研の創発物性科学研究センター創発分子機能研究グループで上級研究員を務める尾坂格氏、特別研究員の斎藤慎彦氏とグループディレクタを務める瀧宮和男氏らの研究チームは、OPVのエネルギー変換効率を向上させるための研究に取り組んでいる。その1つが2014年に開発した半導体ポリマー「PTzBT」である。
今回は、このPTzBTを改良して、太陽光をより多く吸収することができる半導体ポリマー「PTzNTz」を開発し光活性層に用いた。PTzNTzは、同研究チームが2012年に開発した、変換効率が10%のポリマー「PNTz4T」の分子構造の一部をPTzBTに導入している。これによって、OPVのエネルギー変換効率は、PTzBT素子を使った場合に7%であったものが、PTzNTz素子を用いることによって9%となり、2ポイント向上させることができた。
耐久性の評価も行った。光や酸素、水分の影響を排除するため、OPVをグローブボックスに入れ、遮光した状態で素子を85℃に過熱して500時間保存したあとに、OPVの特性を測定した。その結果、PTzBT素子を用いた場合は、試験開始から数時間でエネルギー変換効率が、初期値のほぼ半分まで下がった。さらに、500時間を経過すると初期値の約40%まで低下した。これに対して、PTzNTz素子を用いると、500時間経過した後でもエネルギー変換効率は初期値の約90%を維持しており、耐久性(耐熱性)を大きく向上させることができた。また、ホール輸送層の材料を酸化モリブデン(MoOx)から、酸化タングステン(WOx)に置換したPTzNTz素子であれば、500時間経過した後でもエネルギー変換効率はほとんど低下しないことが分かった。
研究グループはその後の研究により、1000時間を経過した後でも、エネルギー変換効率は初期値の96%を保持できることを確認している。この耐熱特性は、現在市販されている太陽電池の仕様を満たしており、実用レベルに近い耐久性だという。ただし、新しい半導体ポリマーおよびホール輸送層材料の改良と、耐久性向上との関連性について、今回の研究では明確に解明することはできなかったという。
OPVの耐久性を評価する加速試験では、耐熱特性をクリアするのが最も困難といわれており、今回の研究成果によってOPVの実用化に大きく前進した。今後は耐光性などの加速試験についてもクリアしていく予定である。
なお、本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」(9月23日付け)に掲載された。
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