富士通研究所は、窒化ガリウム(GaN)高電子移動度トランジスタ(HEMT)パワーデバイスを用いて、モバイル端末などの急速充電を可能にする12W出力の小型ACアダプターを開発したと発表した。
富士通研究所は2015年12月9日、窒化ガリウム(GaN)高電子移動度トランジスタ(HEMT)パワーデバイスを用いて、モバイル端末などの急速充電を可能にする12W出力の小型ACアダプターを開発したと発表した。
スイッチングのタイミングを正確に制御する回路を新たに導入し、損失電流の発生を抑制。本体容積15.6cc、電力効率87%を実現した。同社によると、「12W出力のACアダプターでは、世界最小、世界最高電力効率」という。モバイル端末充電時のACアダプターの消費電力を50%削減でき、「従来の1/3の時間」(富士通研究所)で充電を可能にするとしている。
ACアダプターを高効率/小型化/高出力化するためには、スイッチ素子のオン、オフの動作回数を増やしたスイッチングが求められる。スイッチ素子として、オン、オフを決める閾値(しきいち)電圧が小さく、メガヘルツ駆動が可能なGaN-HEMTが適している。
GaN-HEMTはシリコン(Si)半導体の10倍の周波数で動作し、動作抵抗も1/10以下と高性能である。しかし、現状ではスイッチ素子の動作を制御するICでは、GaN-HEMTの性能を最大限に引き出すことができていなかったという。同製品は、周辺回路を工夫してスイッチ素子に動作抵抗の小さなGaN-HEMTを使用可能にした。
スイッチング方式のACアダプターは、コンセントから入力された交流電圧を接続機器に応じた直流電圧として出力するために、電圧変換器(トランス)と一定周期で電流をオン、オフするスイッチによって安定した直流電圧が得られる。低損失の回路を構成するためには、双方の回路にスイッチ素子と電流を流す時間を調整する制御用のICを配置し、連携して動作させることが必要になる。
スイッチ素子にGaN-HEMTを採用すると高速な動作が可能になるが、制御ICより出力される制御信号波形の形状によっては、損失を増大させる動作が、特に2次側で発生してしまう。1次側のスイッチ素子によるオン、オフ動作と合わせ、常にGaN-HEMTに適切なタイミングで電流のオン、オフを確実に行うためには、制御ICから出力される制御信号波形の形状が急峻(きゅうしゅん)になるように調整する必要があるという。
2次側で制御ICは、スイッチ素子の電圧に合わせてスイッチ素子のオン、オフを制御する電圧を発生させる。しかし、高速動作の影響でオフの動作が相対的に遅くなり、スイッチ素子の電圧の上昇中に一時的に通常と逆向きの電流が生じるのだ。これが損失となる。
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