図1の右側、【製品開発】と【多角化】の部分が、「事業創造」に当たる領域だ。これまでに蓄積された技術を活用し、事業展開が可能な市場を探索して、優れた技術力をベースに新製品を開発、事業の拡大を図るものである。
デジタルカメラの部品(イメージセンサー)を提供するメーカーを例にしたものを図4に示す。
この例では、もともとは「技術戦略」の強みとして、イメージセンサー(CMOS/CCD)の優れた「要素技術」を持ち、既存の“対象市場(顧客)”は、デジタルカメラがメインであった。この市場(顧客)に対して、“提供形態”はイメージセンサー単体、すなわち部品として供給しているのみであった。
このイメージセンサーは、特に、小型/軽量/省電力などで優れていたが、新しい市場領域として、医療用カメラ事業に着目。“カプセルカメラの完成品供給”に提供形態を定め、「部品ではなく完成品」として事業拡大を図った。すなわち、医療用カメラ市場に事業領域を移し、同時に、部品サプライヤーから完成品メーカーへと脱却したのである。
これは、見方によれば、第11回の図3で示した「川下企業への参入(川下企業の上流工程に入り込んだ)」とみることもでき、事業創造と同時に顧客創造をなし得た例になる。
事業創造に必要な要素をまとめると、図5のようになる。
大きく分けると、「コアコンピタンスの確立」と「周辺技術の統合化力」の2つが挙げられる。コアコンピタンスは、これまでに出てきた「要素技術」に近いものだ。
ここでは、特に赤文字の部分に注目していただきたい。
「積み重ね技術」は、第3回の図4で示した“模倣されない技術”の中で「革新技術」以上に重要なもので、「学習」を要するので長期間かかると述べた。図5中では、「学び合う実践共同体」という表現で示されている。これは、第3回で示した「組織能力」に他ならず、筆者の過去のコラム『いまどきエンジニアの育て方*)』の第4回「目指せ、全員参加のOJT 〜若手育成に“組織学習”を生かす」で述べた、組織学習とも同じ意味を持つ。
*)「いまどきエンジニアの育て方」連載バックナンバーはこちら
同様に、「周辺技術の統合化力」において、川下企業に対し、部品ではなくアセンブリしたモジュール部品や完成品を供給するためには、川下企業の業務プロセスを知らなければならない。そのためには、どのようなオペレーションプロセスなのか、具体的に業務フローなどを精緻に描けないと、川下企業へ入り込むことは困難である。参考までにこれは業務改善などの可視化でも同じことがいえる(参考記事)。
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