専用配線による外部磁界を利用した書き込み方式は、メモリセルがかなり大きくなるものの、製造技術的にはそれほど難しくない構造であるという重要なメリットがあった。
ただし、将来の高密度化と大容量化を想定すると、外部磁界を利用した書き込み技術は致命的な弱点を抱えていた。それは、サイズを小さくするとデータ書き込み(磁化反転)のために必要な電流が大きくなるという性質である。
金属配線を流れる電流は、無限に大きくするわけにはいかない。限界が存在する。限界を決めるのは「エレクトロマイグレーション」である。エレクトロマイグレーションとは配線中の金属イオンが電流(厳密には電子)によってわずかずつ移動する現象で、電流密度が高くなると顕著に現れるようになる。エレクトロマイグレーションは進行すると金属配線の抵抗増加や断線などの不良をもたらす。
サイズを小さくすることは、同じ電流値でも密度が上がることを意味する。エレクトロマイグレーションの進行が早まる。実用的には、平方センチメートル当たりで107Aが電流密度の限界とされている。
電流で発生させた外部磁界による書き込みだと、おおよそ50nm〜60nmの設計ルール(最小加工寸法)でエレクトロマイグレーションによる限界に達する。これ以上の微細化は、製品レベルの信頼性を危うくする。
この限界を突破する技術が電子スピン注入型の磁気メモリ、すなわちSTT-MRAMである。
(次回に続く)
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