磁気トンネル接合(MTJ)を利用したデータ書き込みの原理を説明していく。まず、外部磁界による書き込みとその限界を紹介する。
国際会議「IEDM」のショートコースでCNRS(フランス国立科学研究センター)のThibaut Devolder氏が、「Basics of STT-MRAM(STT-MRAMの基礎)」と題して講演した内容を紹介するシリーズの第8回である。
前回は、磁気メモリ(MRAM)の記憶素子「磁気トンネル接合(MTJ)」と、MTJを利用したデータ読み出しの原理を解説した。今回からは、データ書き込みの原理を説明していく。始めに外部磁界による書き込みとその限界を示す。次回は、電子スピンの注入による書き込みを説明する。
磁気メモリ(MRAM)の記憶素子が磁気トンネル接合(MTJ)素子であることは、前回に説明した。このMTJ素子を2次元マトリクスのアレイ状に配置した構造が、MRAMの基本構造である。行列(マトリクス)の行に相当するワード線と、列に相当するビット線の平行な金属配線群を直交するようにレイアウトし、ワード線とビット線の交差点にMTJを置く。「クロスポイント構造」として知られるこの単純な構造が、当初はMRAMのメモリセルアレイとして考えられた。
クロスポイント構造のMRAMでは、ワード線電流による磁界とビット線電流による磁界を組み合わせることで、MTJのデータを書き込む。この方法は極めて単純なのだが、製品には至らなかった。初めて製品化されたMRAMは「トグル方式」と呼ばれる、外部磁界発生用配線によって磁化の方向を回転させる方式を採用していた。言い換えると、トグル方式の開発によって初めて、MRAMは商品化された。
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