では、本連載の最後のまとめを述べさせていただきたいと思います。
前々回の記事で、私は、
「超高精度なリアルタイム通信を、EtherCATやTwinCAT3に押しつけて、おいしいところだけ食いにくる奴らがやってくる」
と記載しました。
制御の世界のコモディティー化は、時代の流れでしょう。
メールを使うのと同じような感覚で、センサーやロボットが扱える時代になることが、悪いわけがありません。
現在、制御の世界を、制御の知識のない人に開放することの危惧が叫ばれていますが、インターネットの創成期だって、多くの人間が、情報の世界を一般の人に開放することの危険を主張していました。
そして、これまで、功罪いろいろありながら、私たちは、なんとか、今に至っています
だから、制御の世界も同じような経緯をたどるはずです。
私には、「IoT」なるものが何なのか、私にはよく分かりません。
制御の世界も、インターネットと同じような経緯で、私たちの日常の中に入り込んでき、EtherCATは、その世界のメインプレーヤーになることだけは、間違いなさそうです。
「情報と制御の融合」といわれるとき、多くの場合、『制御システムを情報インフラでコントロールする』という意味で使われることが多いようです。
しかし、私は、『制御が情報の世界に向って逆流を開始すること』を確信しているのです。
では、本連載のトリを、以下のセリフで飾らせていただきたいと思います。
―― EtherCATが、情報系の「意識高い系」の奴に喰われるのではない。
―― EtherCATで、私が、奴らを喰いに行くのだ
私は、制御の世界を、ITベンチャーの「意識高い系」の奴らに喰いものにさせるつもりはありませんし、2次元空間の仮想世界の中でヌクヌクと自己完結している奴らを、そのまま放置させるつもりもありません。
―― 必ずや、制御という手段で、奴らを現実世界に引き戻してくれる
と、思っています。
私のEtherCATに対する期待は、皆さんが考えているより、はるかに大きいのです。
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.