「ご主人様とメイド」の例えで産業用ネットワーク「EtherCAT」の世界を紹介してきた本連載も、いよいよ最終回です。今回も、前回に引き続いて、EtherCATを開発したベッコフとEtherCAT Technology Groupの方々へのインタビューの模様をご紹介しつつ、「EtherCAT」への熱い想いで締めくくります。
FA(ファクトリオートメーション)を支える「EtherCAT」。この超高度なネットワークを、無謀にも個人の“ホームセキュリティシステム”向けに応用するプロジェクトに挑みます……!! ⇒「江端さんのDIY奮闘記 EtherCATでホームセキュリティシステムを作る」 連載一覧
前回の最終章前編の校了直後に、インタビューに応じていただいたベッコフ日本法人社長の川野俊充さんから、
MONOistで紹介された「トヨタが工場内ネットワークでEtherCATを全面採用、サプライヤーにも対応要請」の記事にも言及してほしい旨のご依頼をいただき、私はドタバタと30分程度で差し替え原稿を書いて、編集部に送付しました。
その日、私は1人で興奮して、「『エンジニアチョイス』の勝利だ!」(前編の川野さんの発言より)と叫びながら、飛び回っていました。
(この辺りのことについては、「私の日記」をご覧ください)
それはさておき。
「標準化戦争」という言葉があります。
私たちになじみのある、そして、熾烈(しれつ)を極めた標準化戦争の1つに「ビデオ戦争」があります。
特に私の世代で印象深いのが、映画『陽はまた昇る』にもなった「VHS vs ベータマックス」の話ですし、比較的新しいものであれば「Blu-ray Disc(BD)とHD DVDの戦い」などもあります。
これらの「ビデオ戦争」で、私たちエンジニアが学んだことは、「技術的に優れているモノが、必ずしも、標準化戦争に勝つとは限らない」という事実でした。
「VHS vs ベータマックス」戦争において、VHSが勝利を納めた理由は、もちろん、いろいろな要因は挙げられますが、私はこの理由に尽きる、と思っています。
―― VHS陣営がアダルトソフトにも積極的に進出する一方、ベータマックス陣営は発売をためらっていた。
EtherCATも、制御LANの1つの規格ですから、この「標準化戦争」から逃れることはできません。
現在、PROFINET、EtherNet/IP、CC-Link、MECHATROLINKの他、世界中には互換性のないネットワークが山ほどあるのですが、制御LANには「エロ」の要素がない。
しかも、家電製品と異なり、制御LANを使う製造ラインの機器はライフサイクルも長い上に(10年以上)、複数の機器は、バラバラのタイミングで壊れたりリプレースされたりしていきます。
ですから、あるメーカーが、制御LANの規格を、「いっせーの、せい!」と切り替えることは、本当に難しいのです。
(ですから、私は、前述の自動車メーカーの発表に、心底、驚いたのです)
「標準化」が争いになるのは、自社で開発した技術を守るためです。
もし、この戦争に負ければ、自社でせっせと作ってきた製品が売れなくなり、最悪の場合、市場から撤退しなければなりません。
さらに、これまで投資してきた研究開発コストが無駄になるだけでなく、もう1度、業界標準の規格の製品開発を最初からやりなおさなければなりません。
さらには、すでに販売してしまった商品のサポートも続けなければなりません。
「標準化戦争」の敗者の末路は悲惨です。
私が、今回の世界最大の自動車会社のEtherCATの採用を喜んだのは ―― もちろん自分で選んだ規格を、他の人(会社)にも選んでもらえてうれしい ―― ということもあるのですが、
それよりなにより、
―― もうこれ以上、別の制御LANの規格を勉強しなくてもよさそうだ
と、思えたからです。
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