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「SEMICON West 2016」、半導体露光技術の進化を振り返る(前編)福田昭のデバイス通信(81)(2/2 ページ)

» 2016年08月09日 10時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]
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等倍露光技術の進化と終焉(しゅうえん)

 半導体の露光技術は、マスクとウエハーを接触させた「コンタクト(Contact)露光」から始まる。コンタクト露光技術が登場したのは1962年で、現在からは50年以上も昔のことだ。コンタクト露光では、回路パターンと同じ大きさ(原寸大)のマスクを作製し、マスクをウエハー表面のフォトレジストに接触させてマスクに平行光を照射する。しかしマスクとフォトレジストが接触することによってマスクにゴミが付着するという大きな問題を抱えており、半導体製造の歩留まり向上を妨げていた。にもかかわらず、1960年代は他の露光技術がなく、コンタクト露光によって半導体チップを製造せざるを得なかった。

 1970年代に入ると「プロキシミティ(Proximity)露光」が登場する。コンタクト露光におけるゴミ付着の問題を避けるため、フォトレジストとマスクの間にわずかな隙間(約10μm)を残してマスクをウエハー上に近接させる。マスクとウエハーを近接させ、なおかつ固定する、という方式の装置開発は簡単ではなかったものの、1977年にキヤノンがマスク自動位置合わせ機能付きプロキシミティ露光装置「PLA-500FA」を発表したことで、プロキシミティ技術は半導体製造ラインに一気に普及する。「PLA-500FA」は1978年に販売を始めると大いに売れ、キヤノンが半導体露光装置の大手メーカーとなるきっかけを作った。

 そして等倍露光方式の最終世代となるプロジェクション(投影式)スキャナー(厳密にはプロジェクションアライナー)が登場した。マスクに形成した回路パターンを、反射鏡(ミラー)あるいは屈折レンズの光学系を通じてフォトレジストに投影する技術である。光学系のピント合わせに問題のあるプロキシミティ方式に比べると、プロジェクション方式ではしっかりとピントを合わせられる。このため、解像度が格段に向上した。

光を使わないリソグラフィ技術の研究開発

 一方、1970年代後半に入ると、光露光の限界がリソグラフィ技術の研究開発コミュニティーで真剣に議論されるようになった。当時の光露光技術は水銀灯の光源と、回路パターンと同じ寸法(等倍)でなおかつウエハーとほぼ同じ大きさのマスクを使用していた。光源は、水銀灯の輝線(特に強く光る波長)に相当するg線(波長436nm)、h線(波長405nm)、あるいはi線(波長365nm)を利用する。マスクはガラス基板に金属のクロムで形成していた。

 ここで解像度を高めるときにまず問題となるのが、マスクの欠陥である。欠陥というほどひどくはなくとも、マスクにおける寸法の設計値からのズレがそのままの寸法で、半導体チップの回路パターンに影響する。そしてマスクが完全であったとしても、ウエハーの反りによって焦点がぼやけ、解像度が低下する。当時のプロジェクションアライナーは光学系に主に反射鏡(凹面鏡と凸面鏡)を使用していた。反射光学系は開口数(N.A.)が低く、また、焦点深度が浅い。屈折レンズは完成度がまだ低く、半導体の露光装置には採用しづらかった。

 露光装置の解像度(R)を決めるのは主に、光源の波長(λ)と光学系の開口数(N.A.)、そして比例定数(k1)である。このことは「レイリーの式」と呼ぶ基本式、

R=k1×λ/N.A.

で表現される。ここで当時の技術水準を当てはめると、λはg線で436nm、N.A.の限界は約0.17、k1の限界は約1.00となる。現在に比べるとN.A.は恐ろしく低く、またk1は恐ろしく高い。この結果、光露光の限界は約2μmになるとされていた。実際には位置合わせ技術などの改良があってk1は0.7くらいにまで下がるのだが、それでも約1.4μmで限界に達する。

 そこで打開策として考えられたのが、光源の波長を短くすることである。光源の候補は2つあった。1つは電子ビーム(E-Beam: electron-beam)、もう1つはX線である。

半導体露光装置用光源の波長(筆者の調査結果) (クリックで拡大)

中編に続く

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