こんにちは、江端智一です。
9月に入り、学生の皆さんは長い夏休みも終わって、学校に宿題を提出しているころでしょう。そこで今回は、番外編として、前回の記事の補足と、私が「この話については、次回以降に展開します」と放り投げてきた宿題としてきた、いろいろな案件の回収をしたいと思います。
(1)飛び込み自殺の人身事故に対する私たちの「怒り」が裁判にならないのか?(前回の追加調査)
(2)飛び込み以外の自殺のコストの再検討(首吊りだって、いいじゃない?)
(3)飛び込み自殺者は、自分を殺害した咎(とが)で、殺人罪にはならないのか
そして、最後に、読者の皆さまからいただいたアンケート結果、例えば、「江端の目の前で、飛び込み自殺が行われるのを、眺め続けるだけの(止めようとしない)江端を、罪に問えるか」などについての、ご回答を紹介したいと思います。
前回のコラムで、私は、
(1)「鉄道を使った飛び込み自殺」の巻き添えを食った私は、その当事者または鉄道会社に損害賠償請求や、訴えを起こすことができるのか → 手続きとしてはできるが、(損害額の認定が難しく(最悪1800円くらい)、訴訟を起こすメリットがないため)、現実的にはできない
と結論づけたのですが、どうにも納得できず、「1800円の返還を求めて、本当に裁判やったらどうなるか」の机上シミュレーションを試みてみました。
まず、加害者(飛び込み自殺をした人)は死亡しているので、被告適格はありません。遺族には、その損害の相続権が発生しますが(マイナスの遺産)、私は遺族に対しては腹を立てていないため、そちらは放っておきます。
とすれば、被告は、「自殺を阻止して、遅延発生を防止できなかった鉄道会社」になります。請求理由は「ホームゲートウェイの設置などを怠り、適正な時刻に電車を到着させる義務を怠った」という理由で十分だろう、と考えました。
まず、私は鉄道会社に、1800円の損害賠償を請求しますが、当然、鉄道会社は、この支払いを拒否するはずです。
私がこの裁判に勝って、確定判決を受ければ、1800円の支払いを受けられますが、同時に、他の人(120分遅延コースで、約3万人)も請求ができることになります(裁判費用については集団訴訟にすればよい)。1800円あれば、私たちは、お昼にちょっと良いランチを食べることができますが、鉄道会社の支払い金額の合計は5400万円にもなってしまいます。
ですから、鉄道会社は、私一人であっても、絶対に支払いに応じることはできず、この損害賠償請求は、(私が諦めない限り)必ず裁判に至るはずです。
私が、その請求の根拠となる鉄道運行に関する法律と、損害賠償の民法の規定(709条)を根拠条文として訴状を作れば、「1800円、損害賠償訴訟」は、裁判所に係属する――ハズです。
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