つまり、現時点において、少なくとも第1世代や第2世代が目指した人工知能は、完全な形で動かすことができる環境になっているハズなのです。
しかし、この本の中で真剣に論じられている、人工知能に与える命令「新聞を取ってこい。しかし、雨にぬれてはいけない」を、人工知能が実行できたという話を、私はいまだに聞いたことがありません。
この有名(?)な「新聞とレインコート」という"人工知能"に対するミッションは、
というものです ―― いえ、全くふざけているわけでもなく、本当に文字通りこの通りのミッションだったのです。
この本の中では、その当時の人工知能は ――「外に行って新聞を取ってくる」と「ぬれてはいけない」という背反した命令を解決できず迷走を続ける ―― という話で終わっています。
もしかしたら、この「新聞とレインコート」の課題は、既に達成されて、今さら話題にもならないだけなのかもしれません。しかし、もしそうであるなら、私が前回のコラムで解説した、コンピュータブレイン「ナンシー」は、(少なくともインタフェースの部分だけでも)既に実現されていても良いはずです。
つまり、
という、人工知能研究者たちの山のような「もしも」は、コンピュターリソースの劇的な発展によって、ことごとく崩壊してしまっているのです。
そういえば、この本の中でも、やっぱり ―― 人工知能が、私たちの仕事を奪う ―― という、あの定番のお話は出てきました。
引用します。
そして、次の問題は「AI失業」 ―― コンピュータとロボットに仕事を奪われる可能性 ―― だった。カーネギー・メロン大学ロボット研究所のラジ・レディ所長は、現在のアメリカでは2500万人が製造業務に携わっているが、2010年までにこれが300万人に激減すると予想している
さて、この予想、どうなったと思いますか?
製造業人口は減ってはいるけど、これは主に、中国などアジアへの製造現場の移設、ITによる合理化、製造ラインの高機能化、省人力化であって、"人工知能"なんぞ全く関係ありません。
そもそも、「予想を1000万人近くも外すって、研究所の所長としてどうよ」って、研究員でもあるこの私でも思います ―― その当時の、ラジ・レディ所長の「300万人/2010年」の予測の根拠が手に入らなかったので、これ以上はコメントを避けますが。
さて、最近も人工知能によって失われる職種が大々的に発表されているようですが ―― そんなこと言っていて、本当に大丈夫なんでしょうか。
私、もう30年ほど長生きするつもりです。そして、その時に、その予想した人の名前(触れ回っている人も含めて)、名指しで、強調大文字24ポイントくらいで、でかでかとコラムに記載するつもりです。
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