TSMCは、Appleの「iPhone」向けプロセッサ「A10」および「A11」(仮称)の製造を、ほぼ独占的に製造することになるとみられている。もう1つのサプライヤーであるSamsung Electronics(サムスン電子)に対する優位性をもたらしたのは、独自のパッケージング技術「InFO」だという。
アナリストによると、TSMCは、2016年と2017年にAppleの「iPhone」向けプロセッサ「A10」および「A11」(仮称)の製造をほとんど請け負うことになる見込みだという。TSMC独自のパッケージング技術「InFO(Integrated Fan Out)」が優位性の決め手になったとみられる。
TSMCは、InFOを、Appleの新型スマートフォン「iPhone 7」に搭載されるA10プロセッサ向けに適用してきた。InFOには、フリップチップ基板ではなくファンアウト型ウエハーレベルパッケージが用いられている。それにより、パッケージの厚みを20%減少し、発熱を10%抑えられる他、I/O速度を20%高められるという。
ムーアの法則がその物理的限界といわれる5nmプロセスに近づきつつある中、このような高度なパッケージング技術の実用化により、「モア・ザン・ムーア(More than Moore)」にも移行しつつあるといえるだろう。
台湾・台北に拠点を置くYuanta Investment Consultingでアナリストを務めるGeorge Chang氏は、「TSMCがA10の製造を100%に近い割合で請け負うことができた理由はInFOである、というのが大方の見方である。同社が長期的に市場を専有することはないだろうが、他の企業が2017年上半期(10nmプロセスを用いるとみられるA11の発表前)までに実行可能なソリューションを、それも、“最適な歩留まり”を伴う形で生み出せるかどうかは定かではない」と述べた。
InFO技術は、競合のSamsung Electronics(サムスン電子)に対する優位性をTSMCにもたらした。Samsungは2016年の大半にわたり、Appleのプロセッサのサプライヤーとしては“二番手”に甘んじている。
Credit Suisse(クレディ・スイス)の台湾拠点でアナリストを務めるRandy Abrams氏は、「Appleは2016年上半期までプロセッサの発注先を分割していたが、2017年は年間を通じてTSMCに製造を全て委託するとみられる」と語った。
Chang氏によると、業界のトップを走るAppleを他社が追う中で、InFO市場は急速に成長する見込みだという。同氏はInFO市場の規模が2015年の2億米ドルから2020年には23億米ドルに急成長すると予測している。
Infineon Technologies(インフィニオン・テクノロジーズ)は2008年に、この技術を「eWLB(embedded Wafer-Level Ball grid array)」として開発した。それにより、低コスト化とパッケージの低背化を実現した他、部品の統合を図ることができた。だがTSMCがInFOとして実用化するまでは、歩留まりの問題が、この新たな技術の導入を妨げていたという。
TSMCやInfineonに加え、旧Freescale Semiconductor(フリースケール・セミコンダクター)やAmkor(アムコア)といった企業も、同技術を「FOWLP(Fan-Out Wafer Level Packaging)」として知的財産権を所有している。
香港のBernsteinでアナリストを務めるMark Li氏は、TSMCが2016年第3四半期にもInFOを適用したチップの量産体制を整えられるとみている。「2020年までには、全てのスマートフォンおよびタブレット端末の約50%は、InFOや、それに類似したパッケージング技術を適用したチップを搭載していることになるだろう」(同氏)
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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