奈良先端科学技術大学院大学の松井文彦准教授らは2016年11月、超伝導を引き起こす要因となる、不純物原子の局所構造を明らかにした。独自の「光電子ホログラフィー法」を用いて、黒鉛の蜂の巣格子間に挟まれているカリウム原子周辺の原子配列の再生に成功した。
奈良先端科学技術大学院大学の松井文彦准教授と大門寛教授は2016年11月、超伝導を引き起こす要因となる、不純物原子の局所構造を明らかにしたと発表した。高輝度光科学研究センターの松下智裕主席研究員らと共同で、黒鉛に挿入されたカリウム原子の配列を直接可視化するための方法「光電子ホログラフィー法」を開発。この方法を用い、黒鉛の蜂の巣格子間に挟まれているカリウム原子周辺の原子配列の再生に成功した。
ダイヤモンドや黒鉛など炭素材料の層間に、ある種の不純物原子を挿入して冷却すると、電気抵抗がゼロとなる超伝導状態が発現する。岡山大学の久保園芳博教授らが行ったこれまでの研究成果によって、カリウムとカルシウムの組み合わせなど、複数種の元素を不純物原子として黒鉛に添加すると、超伝導状態になる温度を制御できることが分かっている。しかし、不純物原子がどのような配列となっているかは解明されていなかった。
今回の研究では、試料にX線を照射した時、その試料から飛び出す電子の角度分布(光電子ホログラム)を一度に測定できる2次元表示型電子分析器を開発し、大型放射光施設「SPring-8 ビームライン BL25SU」に設置した。
試料から放出された光電子は、周囲の原子によって散乱し複雑な干渉模様が生じる。光電子ホログラムと呼ばれるこの干渉模様には、局所的な原子配列の情報が含まれているという。これを詳しく解析することで、正確な原子配列を直接可視化することに成功した。なお、松下氏は、初期モデルを仮定せずに、光電子ホログラムから直接原子配列像を得られるアルゴリズムを開発した。松井氏が光電子ホログラムを測定する実験環境を整えた。
さらに、物質・材料研究機構(NIMS)の濱田幾太郎主任研究員と大阪大学の森川良忠教授および浜本雄治助教は、黒鉛層間化合物に適した理論計算手法とソフトウェアを開発した。光電子ホログラムから得られた原子配列モデルに基づき、この超伝導化合物について、より精緻(せいち)な原子構造を理論計算で決定した。その結果、カリウム原子を挿入した表面第1層の黒鉛層間距離は、0.537nmであることが分かった。
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