東北大学の研究グループは2016年12月19日、磁石材料から構成されるミクロなスピントロニクス素子を用いた人工知能(AI)の基本動作実証に「世界で初めて」(同グループ)成功したと発表した。
東北大学電気通信研究所の大野英男氏、佐藤茂雄氏、深見俊輔准氏らのグループは2016年12月19日、磁石材料から構成されるミクロなスピントロニクス素子を用いた人工知能(AI)の基本動作実証に「世界で初めて」(同グループ)成功したと発表した。
AI技術は既に社会の一部で活用されているが、いずれも従来の半導体集積回路技術の枠組みを踏襲している。そのため、現状では小型化および低消費電力化は実現できておらず、適用範囲は限定的となっている。東北大学によると、この課題を解決するには、脳で記憶をつかさどる「シナプス」の役割を果たす固体素子を開発することが有効だという。
人工シナプス素子では、生体シナプスと同じくアナログ的に状態を変化させることができ、その状態を長時間にわたり保持し、無制限に更新できることが望まれる。同研究グループは、磁石材料から構成され、上記で挙げた特徴を持つスピントロニクス素子(図1)を開発したことを以前から報告していた。
図1:(a)今回の実験で人工シナプスとして用いたスピントロニクス素子。白金・マンガン合金とコバルト・ニッケル積層膜からなる磁性細線に電流を流したとき、電流の大きさに応じて細線の抵抗が連続的に変化する/(b)用いたスピントロニクス素子の印加電流と抵抗の関係の測定結果/(c)実証実験用にパッケージにマウントしたスピントロニクス素子アレイ。右は1セントコイン (クリックで拡大)出典:東北大学今回、東北大学のスピントロニクス素子36個とFPGAを組み合わせ、人工ニューラルネットワーク(図2)を構築。これまでのスピントロニクス素子では、「0」「1」の2状態しか記憶できなかったのに対して、「0」から「1」まで連続的な値を記憶できたとする。これが、人工ニューラルネットワークにおいてシナプスの役割を果たす。
また同研究グループは、構築した人工ニューラルネットワークを用いて、コンピュータが苦手とする連想記憶の動作を検証した。3×3ブロックにおける「I」「C」「T」の3つのパターンのいずれかから1ブロックを反転させたパターンを人工ニューラルネットワークに与え、その元となったパターンを想起するという試験である。
パターンの想起には、「ホップフィールドモデル」というニューラルネットワークの情報処理様式を模擬したモデルを採用。スピントロニクス素子の状態が、ある一定の法則に基づいてアナログ的に書き換えられることで学習を行い、正解へと導く。同研究グループは「多数回の試行を通して、開発したスピントロニクス素子は期待通りの学習機能を有し、正解パターンの想起に寄与することが確認された」と語る。
同研究グループは、今回の原理実証実験の成功により、高速で小型、低消費電力という脳が持つ利点を備えたAIの実現へ新しい道が切り開かれるとした。
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