東北大学の大関真之准教授らは、量子アニーリングのシミュレーションを行うことができる新たな方法を開発した。最適化問題や機械学習に特化した量子計算技術の研究に弾みをつける。
東北大学大学院情報科学研究科の大関真之准教授らによる研究グループは2017年1月、量子アニーリングのシミュレーションを行うことができる新たな方法を開発したと発表した。開発が進む量子コンピュータの動作検証に有用な手法となる。最適化問題や機械学習に特化した量子計算技術の研究に弾みをつけるとみられている。
量子アニーリングは、さまざまな可能性の中から最善の結果を見つけ出す「最適化問題」に特化した計算手法である。機械学習にも利用されている。これらの計算を高速に実行する専用コンピュータとして注目されているのが、量子アニーリング方法を用いた量子コンピュータである。
量子アニーリングは、小さな磁石(スピン)が上か下を向く性質を用いる。このスピンに横向きの磁場をかけることで、上向きや下向きとなる磁石の状態を作り出し、どちらの方向が磁石にとって最善の状態になるかを探索する。こうしたスピンの振る舞いを記述したモデル「イジングモデル」を利用したのが「イジング型コンピュータ」で、最適化問題や機械学習に適用させるため、世界の研究機関が開発に取り組んでいる。
ところが、量子コンピュータの動作原理は従来のコンピュータとは全く異なり、従来手法で全ての動作をシミュレーションすることは難しいという。例えば、量子力学では異なる可能性を「重ね合わせる」ことができる特有の性質を扱えるからだ。従来方式だと、この重ね合わせ状態を作り出して、ハードウェアの動作を検証することは困難だった。
量子アニーリングの手法を用いると、横向きの磁場のかけ方によって、量子アニーリングの計算能力は格段に向上することが既に報告されている。しかし、現状では効率的に行えるシミュレーション方法がなく、一様な横磁場による方法しか用いられてこなかったという。
研究グループは今回、横磁場以外の方法を用いた場合でもシミュレーションを効率的に行える「適応的量子モンテカルロ法」を発明した。この方法は、シミュレーションしたい問題設定の性質に合わせた数学的な計算を、ある程度まで先行して進める。この方法だと、従来方法ではシミュレーションが難しかった「負符号問題」を回避することができるという。しかも、従来型のコンピュータ上において、横磁場以外の方法でもシミュレーションすることが可能となる。
今回の研究成果について研究グループは、「量子コンピュータが正しく動作しているかどうかを検証するには、従来型コンピュータ上と量子コンピュータ上で行ったそれぞれの計算結果を対比させることが必要となる。その意味で今回は、従来コンピュータと量子コンピュータの間をつなぐ重要な研究成果となる」とみている。
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