FTC(米国連邦取引委員会)が独占禁止法の疑いでQualcommを提訴した直後、今度はAppleがQualcommを提訴した。Qualcommは米国だけでなく、中国や韓国でもロイヤリティーなどをめぐる問題で訴えを起こされている。飽和しつつあるスマートフォン市場で独占的な地位を築いているQualcommに対し、風当たりが強くなっているようだ。
Appleは2017年1月20日(米国時間)に、Qualcommを相手取り、不公正な特許慣行による損害を受けたとして、10億米ドルの賠償金を請求する訴訟を、カリフォルニア南部地区連邦地方裁判所に申し立てた。Reuters(ロイター通信)をはじめ、さまざまな情報筋が報道している。
Forbesの記事で引用されている報道向け資料によると、Appleは、「Qualcommとの間で長年にわたり、公平かつ合理的なロイヤリティーの支払いをめぐる意見の不一致があったため、裁判を起こす他に選択の余地がなかった」と述べている。
企業は通常、裁判を起こすことを嫌う。高額な費用がかかる上に、企業秘密にすべき情報が公になる恐れがあるためだ。しかし、成長が鈍化する中、利益確保への圧力が高まっていることから、ロイヤリティーが次なる戦場の舞台になったのも時間の問題だったといえる。
Forbesの記事によれば、Appleは、「Qualcommのロイヤリティー料率は、法外に高い。基本的なセルラー規格の策定には数十社以上の企業が貢献しており、Qualcommはその中の1社にすぎない。それにもかかわらず、Appleが合意している他の全てのセルラー関連特許のライセンス企業に支払う金額の、少なくとも5倍を、Appleに対して強制的に課金しようとしている」と主張している。
さらにAppleは、「Qualcommは、Appleに対する10億米ドルのリベートの支払いを保留しているが、これは、Appleが、法執行機関が実施した調査結果に忠実に従ったことに対する“報復措置”なのではないか」としている。
Reutersは、“リベート”と表現しているが、これはPCの全盛期にMicrosoftがPCメーカーに報奨金として支払ったとされる“リベート”と同じ意味である。同社は、Windows OSを推奨するマーケティングプログラムの一環として支払われたとされている。
Appleが指摘するQualcommの“報復措置”とは、韓国公正取引委員会(KFTC:Korea Fair Trade Commission)が2年間にわたる調査を行った結果、Qualcommに課した、1兆300億ウォン(約10億米ドル)の罰金支払い命令のことを指すとみられる。
Forbesによると、Appleは訴訟の中で、「当社が『iPhone』のメモリを128Gバイトから256Gバイトにアップグレードするだけで、Qualcommが膨大なロイヤリティー収入を得ることになる」と主張しているという。
Appleによる今回の訴訟は、Qualcommに対する複数の訴訟の中で最も新しいものだ。
米国連邦取引委員会(FTC)は2017年1月17日(現地時間)に、Qualcommのベースバンドプロセッサ関連の特許慣行が不公正であることに対して、裁判所命令を要求すべく、同社を告訴した。特に指摘されているのが、Qualcommが2011〜2016年の間、Appleに対して、Qualcommの競合企業からベースバンドプロセッサを調達しないよう圧力をかけていたとされている点だ。
Qualcommは、KFTCが同社に制裁金の支払いを命じてから1カ月もたたないうちに、FTCからも提訴された。KFTCとFTCは、標準必須特許(SEP :Standard Essential Patent)を競合先にライセンス供与するのを拒んだことと、不公正な条件への同意を顧客に強要したことに対してQualcommに制裁金を科した。
Qualcommは2015年2月に、中国の特許係争の和解金として9億7500万米ドルを支払っている。さらにQualcommは、中国に請求するロイヤルティーレートの引き下げにも同意した。Reutersによると、台湾を含む他の管轄の規制当局もQualcommを調査しているという。
Qualcommは、これらの裁判で自社を弁護する発言を繰り返した。同社は最近の答弁の中で、「最近のKFTCの決定やFTCの提訴からも分かるように、Appleは事実をねじ曲げ情報を隠すことで、世界中のさまざまな地域で当社の事業に対する規制攻撃を盛んに仕掛けてきた」と述べている。
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